利用用途
国内最大級のファッションレンタルサービス「airCloset」を支える基幹システムの性能監視・改善・障害調査を自動化。AIによる完全自律運用に向けた基盤を構築
New Relicの導入目的と成果
- 性能問題の改善で、顧客への商品選定時間を年間2,520時間分削減
- 性能監視から改善計画立案までの工数をゼロに削減
- 「New Relic MCP Server」とマルチエージェントの連携により、AIが毎朝、原因コード付きの改善チケットを自動起票
- 問題調査にかかる時間を従来比20分の1に短縮
- 月額約7ドルというわずかなAI稼働コストで自律型の性能改善サイクルを実現
- 問題原因の可視化により、スキルに応じたエンジニアの最適アサインを実現
利用製品
- New Relic APM
- New Relic Infrastructure
- New Relic Logs
- New Relic Alerts
- New Relic Dashboards
- New Relic MCP Server
拡大するシステムの見える化を目指して
エアークローゼットは、「発想とITで人々の日常に新しいワクワクを創造する」というミッションのもと、女性向けの月額制ファッションレンタルサービス「airCloset」などを運営する企業だ。プロのスタイリストが選んだ衣服をレンタルするサブスクリプションサービスの先駆者であり、airClosetの会員数は2026年3月末時点で約150万人に上る。また、その他のサービスとしては、家電等のレンタルサービス「airCloset Mall」やオケージョンアイテムの都度利用型ファッションレンタルサービス「airCloset Spot RENTAL」、骨格・カラー診断サロン(実店舗)「airCloset Salon」を展開し、2026年5月には男性向け月額制ファッションレンタルサービス「airCloset Men’s」も立ち上げた。2022年7⽉に東証グロース市場へ上場し、同年12月に「日本サービス大賞 内閣総理大臣賞」を受賞した。
同社の特色の1つは、ビジネスを支えるサービス、物流両面の基幹システムを内製している点だ。そのシステムは「Webシステム/アプリケーション」「スタイリングシステム」「外部倉庫連携システム」「倉庫管理システム(WMS)」「バッチサーバー」「管理コンソール」などが相互連携し、商品にはRFIDタグを付けて個別管理し、返却品の検品・棚入れから出荷指示までを独自プラットフォームで完結させている。
同社 執行役員CTOでプロダクトグループマネージャーも兼務する辻 亮佑氏は「内製にこだわってきた理由は、システム改善のスピードを担保することと、当社のビジネスモデルが独自性の高いものであり、既製パッケージでは対応し切れない要件が多かったからです。現在では約70の開発プロジェクトが常に進められる一方で、運用の効率化により、サービス開始当初と比べ運用コストを約50%削減できています」と語る。
株式会社エアークローゼット 執行役員CTO 辻 亮佑氏
ただ、システムの規模と複雑性が増すにつれて全体の状態を把握するのが難しくなり、「障害対応が後手に回る」「性能悪化が見えづらくなる」といった運用上の課題が浮上してきた。こうした問題の解決に向けて、エアークローゼットでは従来もオブザーバビリティ製品を導入していたものの、現場での活用が進まず、実質的には、運用の実効性を欠いた状態が続いていたという。辻氏は当時をこう振り返る。
「airClosetのエラーやレスポンス低下を、我々よりもお客様のほうが先に気づき、カスタマーサポート(CS)チームを通じてエンジニアリングチームに知らされるケースがありました。当時、KPIとして追っていた『性能悪化の発生率』も高くなり、抜本的な対応が求められていました」
同社のプロダクトグループ テクニカルエンジニアリングチームリーダーの三好 力氏も当時の課題感を明かす。
「性能悪化はとらえにくく、いち早く気づくことがなかなかできませんでした。気づくスピードを上げることと、性能悪化を引き起こさない仕組みを作ることの2点を実現したいと考えていました」
特にピーク時における性能悪化は深刻で、データベースへの負荷が通常時の数十倍に跳ね上がり、「N+1問題」などのコード上の問題により、負荷が指数関数的に増大することもあった。こうした状況を抜本的に改善すべく同社が2023年1月に導入を決めたのが「New Relic」である。
フルスタックのデータ観測と手厚いサポートが決め手
New Relicは業界を代表するオブザーバビリティプラットフォームであり、国内では48%のトップシェアを獲得している。デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にし、アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する。
エアークローゼットがNew Relicを選定した決め手は2点あった。1点目は、導入後の立ち上げ支援とノウハウ提供の充実だ。辻氏はこう語る。
「New Relic以前に使用していたオブザーバビリティ製品では、どう活用すれば成果につながるかのノウハウを獲得、蓄積する有効な手段が提供されていませんでした。New Relicは、オンボーディングサポートが充実しており、監視体制の立ち上げを手厚くサポートしてもらえることから、導入に踏み切りました」
2点目は、アプリケーション性能・インフラのメトリクス・動作ログなど、オブザーバビリティに必要なデータを網羅的に収集・分析・可視化できる統合プラットフォームとして機能する点だ。
「以前のNew RelicはAPM特化の印象がありましたが、今やオブザーバビリティに必要なデータを全て収集・蓄積し、使いやすい状態で提供してくれます。その進化を高く評価しました」(辻氏)
障害調査を自動化するAIOpsの仕組みをスピード開発
New Relicは導入後すぐに効果をもたらした。エンジニアリングチームでは2023年に、New Relicのトランザクションを通じた性能問題の調査・分析・改善により、スタイリストが顧客に合った洋服を選ぶまでにかかる時間を年間2,520時間分削減している。
さらに大きな成果が「New Relic MCP Server」とマルチエージェントを使ったAIOps(AIによる自律運用)の仕組み「New Relic Analyzer」の開発だ。問題調査をAIで自動化するこの仕組みは、辻氏が設計し、三好氏とともにわずか数日で実用レベルに仕上げた。
「以前から問題調査プロセスの自動化を構想していましたが、それを具体化したのがNew Relic Analyzerです。このAIOpsの仕組みでは、AIが設計された経路に沿ってアプリケーションの状態分析から問題検出、コード調査、さらにはBacklogチケットの起票までを自律的に行う仕組みを実現しました。これにより『朝、エンジニアが出社すると、原因コード付きの改善チケットが届いている』という世界を実現しています」(辻氏)
New Relic Analyzerにおける処理の流れはこうだ。まず毎朝9時に「Cloud Scheduler」が自動起動する。そして「Gemini Agent」がNew Relic MCP Serverのツールを使い、APMの監視対象アプリケーションの状態を分析する。この分析により、下表に示す6つのタイプの問題が検出される。
表:New Relic Analyzerが検出する6つの問題タイプと検知条件
資料:株式会社エアークローゼット
問題が検出されると、エアークローゼットが内製した「Git Server MCP」を通じてソースコードの調査が行われ、原因コードが特定される。そして、コードの修正案とともにBacklogチケットが自動で起票される。このチケットは日英併記で作成されるため、エアークローゼットの開発パートナーであるベトナムのエンジニアもそのまま利用できる。
New Relic Analyzerでは、重複起票を防ぐ仕組みも組み込まれている。さらに、AIエージェントによる調査でよく起こる「AIが調査に没頭し、結論を出さないままループ上限に達してしまう」という問題に対し、ツール呼び出しの回数上限と時間制限を設けることで、AIが自由に動作できる範囲をシステム側で明確に区切っている。さらに、呼び出しの残り回数をプロンプトに注入することで、AIが自律的に判断するのではなく「設計された制約の中で動作する」形にしている。辻氏は「この工夫によって、調査完了率が劇的に改善した」と述べ、New Relic Analyzerの設計思想についてこう語る。
「一言でいえば、『自分だったら問題原因をどう調べるか』を設計し、プロンプトに落とし込むことで、AIに設計された手順を実行させる仕組みです。AIの汎用的な能力に依存せず、調査手順そのものを設計の側に作り込んでいるのが特徴です。だからこそ、開発時には調査に関する相応のスキル・ノウハウが必要とされる一方で、利用するだけなら専門知識は不要、という非対称な構造になっています」
AIエージェントが障害調査時間を20分の1に
New Relic Analyzerの働きにより「airClosetシステムにおける問題調査の時間が従来比で(体感的に)20分の1に短縮された」(三好氏)という。
株式会社エアークローゼット プロダクトグループ テクニカルエンジニアリングチーム リーダー 三好 力氏
また、N+1問題といった負荷増大の根本原因を事前に発見・修正することで、ピーク時におけるサーバー負荷も大幅に低減され、年間で相応のインフラコスト削減が見込まれる。しかも、AIエージェントの稼働コストは月額約7ドル(Gemini 3.0 Flashを1日1回、30日間テスト稼働させた際の実測値)と非常に安価だ。
加えて三好氏は、New Relic Analyzerがエンジニアリングチームの仕事の進め方を変えた点を評価する。「問題の原因がわかっているかどうかで、アサインできるエンジニアの幅が大きく変わります。原因不明の場合、中堅以上のメンバーにしか対応できません。ただし、原因がわかっていれば、経験の浅いメンバーでも修正可能と判断できます。その分、中堅以上のメンバーを新しい機能開発に充てられます。これは、エンジニアリングマネージャーにとって大きな変化です」(三好氏)
AI×New Relicで問い合わせ対応も大きく効率化
AIとNew Relic MCP Server、そしてNew Relicの連携は、New Relic Analyzerの実現のみならず、日常的な問い合わせ対応業務の効率化にも貢献している。以前はCSチームからの問い合わせに対し、エンジニアがNew RelicのダッシュボードとGitHub上のコードを確認して原因を特定するまで、半日を要することもあった。現在はNew Relic MCP Server経由でClaudeとNew Relic、GitHubを連携させ、調査効率を大幅に向上させている。
「Slackでカスタマーサポートチームからリンクが届いたら、それをClaudeに渡すだけで、ClaudeがNew RelicやGitHubを参照し、問題のありそうなコードを提示してくれます。調査精度もかなり高く、問い合わせ対応のあり方が大きく変わりました」(三好氏)
AIが自律的に問題を解決し、時間価値を創出する世界へ
同社では、AIエージェントによる調査精度を高いレベルで確保する目的で、AIにソースコードを構造化して理解させる「Graph RAG(Retrieval-Augmented Generation)」の実装に取り組んでいる。その実装に向けて、ソースコードの依存関係を解析・グラフ化して保持する「Code Graph」と、データベースのテーブル構造辞書として機能し、意味的検索をサポートする「DB Graph」のMCPを独自に整備している。
同社では、これらのMCP基盤を活用して「問題検出→原因特定→修正コード生成→コードレビュー→テスト→デプロイ」というサイクルを、「設計された自動化パイプライン」として完結させることを目指している。この構想について、辻氏はこう展望する。
「我々はGraph系のMCPの整備を推し進め、自動コードレビューの基盤も社内向けには稼働させています。AIが修正したコードをAIがレビューできる状態が整えば、2026年内にも、N+1クエリなど、一部の性能問題については検出から修正コードのリリースまでを、『設計されたゲート(テスト/自動レビュー/観測)を通したうえでAIに完結させられる』ようになると考えています」
この言葉を受けて三好氏も、こう続ける。
「シンプルな改善ならば、プロンプトを適切に設計してAIに渡すだけで自動的に行えるようになっています。それを発展させていけば、描く構想は実現可能だと考えています」
さらに、辻氏は、New Relicを社内のあらゆるデータソースの集約基盤として活用することも構想している。例えば、セキュリティツールで検出された脆弱性情報もNew Relicに集約し、MCPを通じてAIが優先順位付けや対応の判断を下し、セキュリティ運用を自動化することを目指している。そうした点を踏まえ、辻氏はNew Relic活用の今後について次のような抱負を述べている。
「当社は、お客様や従業員1人ひとりが『時間価値』を最大化することを目指しています。その意味で、New Relicに蓄積されるデータは宝の山であり、MCPサーバーを通じてそれを適切にAIに渡すことができれば、定型的なトリアージや障害調査などの非生産的な作業を自動化し、エンジニアがよりクリエイティブな開発に集中することで、人の時間価値を高められると考えています。今後もNew Relicの活用を深め、オブザーバビリティプラットフォームに蓄積される膨大なデータとAIを掛け合わせて基幹システムの自律運用を推し進め、人がワクワクできる創造に集中できる環境を実現していきたいと願っています」