利用用途
カーシェアサービス「TOYOTA SHARE」を支えるWebアプリケーション、スマートフォンアプリ、IoTデバイスまでを一貫してモニタリングし、プロアクティブなサービス運用とより良いユーザー体験の創造のためにNew Relicを活用
New Relicの導入目的と成果
- クルマの予約から、利用、精算までが可能な「TOYOTA SHAREアプリ」のモニタリング
- ドアの開閉やエンジン始動を制御する車載IoTデバイス「スマートキーボックス(SKB)」のログ収集
- スマートフォンアプリとIoTデバイス・SKBから構成されるエッジ環境のモニタリング
- SKBに関する問い合わせ対応時間を月あたり最大で60%削減
- 「TOYOTA SHAREアプリ」に対する顧客からの問い合わせ回答時間を25%削減
- New Relicのテレメトリーデータをもとに「より良いユーザー体験の作り込み」への注力が可能に
利用製品
・New Relic Mobile
・New Relic APM
・New Relic Infrastructure
・New Relic AWS Integration
・New Relic Dashboard
モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジを加速させるトヨタ自動車のチャレンジは多岐にわたる。CASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)領域のテクノロジー開発と、これを応用したモビリティに関わる多様なサービス開発が全社で進む。そのひとつ、2023年2月にリニューアルされた「TOYOTA SHARE」は、クルマのIoTとも言えるコネクティッド技術を活用したカーシェアサービスとして更なる進化を遂げた。同社 CVカンパニー MaaS事業部 MSPF企画・開発室 システム開発グループ長の水野敦氏は次のように話す。
「TOYOTA SHAREは、クルマの予約から利用、精算までをスマートフォンアプリで完結できるカーシェアサービスとして着実に支持を拡大しています。中でも、『スマホがクルマのキーになる使い勝手の良さ』が好評です。リニューアルにより利用ステーションや車両台数を拡大させ、最短15分から最長1ヶ月の予約まで、いっそう手軽にご利用いただけるようになりました」
MSPF企画・開発室 システム開発グループは、TOYOTA SHAREを支えるスマートフォンアプリやWebアプリケーションの開発・運用、データ分析などを担う。モビリティカンパニーへの変革を担う最前線部隊のひとつだ。
「TOYOTA SHAREがサービスを開始したのは2019年10月。以来、トヨタという自動車会社だからこそ実現できるカーシェアサービスとして、利便性、快適性、安全性を追求しながらお客様のサービス体験を磨き上げてきました。決して平坦な道のりではありませんでしたが、顧客満足度調査で高い評価をいただくなど着実に成果をあげています」(水野氏)
TOYOTA SHAREの「使い勝手の良さ」を決めるスマートフォンアプリを通じたユーザー体験は、どのように作り込まれているのか。
「お客様のスマートフォンをクルマのキーとして利用するための『デジタルキー技術』として、アプリからドアの開錠・施錠とエンジンの始動を制御するための車載デバイス『スマートキーボックス(SKB)』を組み込んでいることが大きな特徴です。これにより、物理キーを受け渡しすることなく、24時間いつでもカーシェアサービス利用を可能にしています。リニューアルに際しては、システムを大幅に強化するとともにオブザーバビリティプラットフォームNew Relicを導入し、新しいビジネス成長に向けた準備を整えました」(水野氏)
スマートフォンアプリとIoTデバイスがやり取りするエッジ環境
TOYOTA SHAREのサービスを支える中核技術は大きく3つ――スマートフォン用「TOYOTA SHAREアプリ」、モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)*としてクラウド上に整備された「Webアプリケーション」、そして車載IoTデバイス「スマートキーボックス(SKB)」である。スマートフォンアプリとWebアプリケーションはインターネットを通じて、スマートフォンアプリとSKB間はBluetoothでそれぞれ通信を行う。
1)TOYOTA SHAREアプリ:MSPFからダウンロードした暗号キーを利用し開錠・施錠、エンジン始動を操作
2)モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF):スマートフォンアプリの要求からユーザー認証を経て暗号キーを発給するWebアプリケーション
3)スマートキーボックス(SKB):暗号キーによる認証を経て、開錠・施錠とエンジン始動を制御する車載IoTデバイス
「New Relicを導入した大きな狙いは、スマートフォンアプリとSKBで構成されるエッジ環境をより正確に把握したい、ユーザー体験に影響するトラブルや不具合が起こったときは即座に知りたい、というものでした。サーバーサイドのモニタリング環境と比較して、エッジ側のそれは決して満足できるものではなかったのです」と話すのは、MSPF企画・開発室 システム開発グループでアプリケーション開発をリードする小林惠太氏である。
New Relicは業界を代表するオブザーバビリティプラットフォームであり、国内では39%のトップシェアを獲得している。デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にし、アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する。スマートフォンアプリにおけるパフォーマンスなどの高度なモニタリング機能はNew Relicの優位性のひとつだ。
「たとえば、サービスを利用中のお客様から何らかの問い合わせを受けたとき、スマホアプリとSKBでどんなやり取りがなされたのかを把握できればスムーズな回答の助けになります。New Relic Mobileによるエッジ環境のログ収集機能に期待しました」(小林氏)
IoTデバイスをNew Relic Mobileでモニタリングするユースケースは少なくない。だが、トヨタが独自に開発したスマートキーボックス(SKB)への適用は初めてだった。小林氏は続ける。
「まず、New Relic技術チームの協力を得てフィジビリティ検証を実施しました。検証のポイントは、①New Relic MobileがSKBのログを確実に取得できるか ②移動するクルマという通信が不安定になる条件下で、SKBのログが確実にNew Relicに送られ可視化できるか の2点でした」
車載IoTデバイスのログ収集と可視化を実現
New Relic Mobileは、スマートフォンアプリにエージェントを組み込むことで、アプリの稼働やエラー状況、アプリの通信時間・通信結果などを把握できる。本プロジェクト固有の課題は、「スマートフォンの先にあるSKB」のログ収集とリアルタイムでの可視化である。
「TOYOTA SHAREアプリに組み込むNew Relic MobileエージェントのSDK機能を利用して、SKBの仕様に合わせた軽微な改修を加えることで、要件としたアプリ-SKB間の通信・操作ログなどの取得が可能になりました。また、山間部などでインターネット通信が滞った場合でも、通信が回復した時点で収集されたログがNew Relicに送られてリアルタイムで可視化できることが確認されました」と小林氏は話す。
スマートフォンの機種やOSのバージョンなど、特定の条件下で発生する問題ならば解決は難しくない。だが、原因の特定が困難な、再現性のない不調がごく稀に発生していたという。トヨタのクルマづくりにおける徹底的な品質へのこだわりは、TOYOTA SHAREにも受け継がれている。
「New Relic Mobileの導入により、エッジ環境で何らかの不調が発生したとき、リアルタイムでその状況を把握できる仕組みが整えられました。現地現物の考え方に基づいて品質向上に取り組んできましたが、より実効性の高い手法と組み合わせることで、より効率的にTOYOTA SHAREの品質を高めていくことができるでしょう」と水野氏は期待を示す。
New Relic Mobileによるエッジ環境のログ収集・分析は、問い合わせ対応の効率化において目覚ましい効果を示した。MSPF企画・開発室 システム開発グループでデータ分析を担当する谷村亮介氏は次のように話す。
「たとえば、カーディーラー様からのSKBに関する問い合わせへの対応時間を、月あたりおよそ60%削減することができました。また、TOYOTA SHAREアプリに対するお客様からの問い合わせ時間も25%程度削減できています。今後、New Relicの使いこなしが進んでいく過程で、過去の症例や対処方法などの知見が蓄積され、対応時間はさらに短縮できるものと期待しています」
現在、TOYOTA SHAREのサービスに対する問い合わせは、サポートセンターが一次窓口となり、解決が困難な場合にNew Relicを扱うシステム開発グループへエスカレーションされている。
「将来的には、サポートセンターの担当者が直接New Relicのダッシュボードを参照できるようにしたいと考えています。これによって、対応時間はさらに大きく短縮できるはずです」(谷村氏)
ユーザー体験を共有し顧客視点でサービスを改善
New Relic Mobileの活用が進み、TOYOTA SHAREアプリの利用状況を定量的に把握できるようになった。これにより、MSPF企画・開発室内での意思決定にも変化が表れてきたという。
「TOYOTA SHAREというプロダクトを作るという視点から、より良いユーザー体験を作り込む、という方向に意識と行動が変わってきたと感じています。開発や保守に携わる私たちの方針はより明確になり、New Relicのテレメトリーデータからよく使われている機能を統計的に発見して優先的に改善し、ほとんど使われない機能の見直しにも着手しています。より効果の期待できる機能開発に注力できるようになったことも大事なポイントです。また、テスト段階でNew Relicを利用することで開発生産性も高められると期待しています」と谷村氏は話す。
AWS上に構築されたWebアプリケーションとサービス基盤へのNew Relicの適用も始まっている。
「サーバーサイドへのNew Relicの導入は容易でした。必要な情報を取れることもすでに確認できています。将来的には、TOYOTA SHAREのサービス全体を俯瞰的に見ながら、アプリの稼働状況やパフォーマンスを把握し、何らかの不調が発生したときにリアルタイムで原因を特定できるようにしたいと考えています。エンドツーエンドのオブザーバビリティというNew Relic本来の能力をフルに活用していきます」(小林氏)
2023年11月時点で、TOYOTA SHAREを利用可能なステーションは全国1,200か所を超える。「車両台数、事業規模ともに倍増を目指す。その準備はほぼ整いつつある」と水野氏は話し次のように結んだ。
「お客様接点としてのTOYOTA SHAREに、カーディーラー様やレンタリース店の期待が高まっています。私たちは、お客様の視点でTOYOTA SHAREを磨き上げ、お客様をはじめすべての関係者にとってより価値の高いプラットフォームへと進化させていきたいと考えています。また、New RelicがIoTデバイスの稼働状況をモニタリングできると実証され、MSPF事業、MaaS事業における新たな武器となることで、サービス拡大の可能性も見えてきました。New Relicの技術チームには、短期間での導入・利用開始に尽力してもらえたことに感謝しています。引き続き適切なアドバイスとサポートを期待しています」
*モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF):モビリティサービスに必要な様々な機能をAPIを介してモビリティサービス事業者に提供するオープンなプラットフォーム。