利用用途
注目の高まる法人向け生成AIサービス「satto workspace」では、サービス公開前からオブザーバビリティを実装。ビジネス、開発、運用が一体となりプロダクトの価値を高めていくBizDevOps体制の土台を築く
New Relicの導入目的と成果
- マルチクラウド、シングルテナント方式で展開されるsatto workspaceの統合監視
- CI/CDプロセスにおけるシステム異常の検知と原因特定、対処のスピードアップ
- サービスレベルやユーザー体験の可視化と問題の早期発見、プロアクティブな対応
- ダッシュボードを通じたカスタマーサービス担当者と開発エンジニア間の意思疎通の円滑化
- ビジネスと開発、運用が一体となりプロダクトの価値向上を目指すBizDevOps体制を推進
- AI駆動によるソフトウェア開発プロセスの変革へもNew Relicを活用予定
- 高い開発生産性と伴走するNew Relicのサポートで、パイロット顧客への提供準備を完了
- プロダクトの市場投入前にオブザーバビリティを獲得し、その強みや信頼性としてNew Relic活用を訴求
利用製品
- New Relic APM
- New Relic Infrastructure
- New Relic Browser
- New Relic Synthetics
- New Relic Logs
- New Relic Dashboard
- New Relic Alerts
- New Relic Network Performance Monitoring
AI事業に力を注ぐソフトバンク期待の新サービス、satto workspace
日本を代表する大手キャリアであるソフトバンク。その勢いや注目度は増す一方であり、ここ数年来の業績もきわめて好調に推移している。2024年度(2025年3月期)の売上高は、前期比4,603億円(7.6%)増の6兆5,443億円に達し、同社のエンタープライズ事業もICTソリューション需要の増大などにより、885億円の増収を記録している。
そうした同社が特に力を注いでいるのは、AI関連の分野だ。AIデータセンターの建設や日本語に特化した国産大規模言語モデル(LLM)の開発、生成AIサービスの開発・提供などを意欲的に推し進めている。
その中で、同社が期待を寄せる法人向けサービスが、2025年7月に催された「SoftBank World 2025」で発表された「satto workspace」だ。その開発・普及を担うソフトバンク株式会社 IT統括 iPaaS事業開発本部 ユーザーリレーション課 課長の石原友介氏は次のように説明する。
「satto workspace は、日本のナレッジワーカーが多く時間を費やしているビジネス資料作成のプロセスを劇的に効率化する革新的なSaaSサービスです。自然言語によるAIとの対話を通じて、資料作成に必要な情報収集から資料の構成・表現までを一気通貫で支援します」
satto workspaceの正式リリースは2026年春を予定しているが、『SoftBank World 2025』で大々的に発表されたことからもわかるとおり、このプロダクトへの社内の期待は大きく、製品発表を受けて社内外からの期待や注目度がさらに高まっている。
ソフトバンク株式会社 IT統括 iPaaS事業開発本部 ユーザーリレーション課 課長 石原友介氏
こうしたsatto workspaceの開発の信頼性やサービスの品質、さらにはユーザー体験を高いレベルで維持するためのソリューションとして活用されているのがNew Relicだ。New Relicは業界を代表するオブザーバビリティプラットフォームであり、国内では46%のトップシェアを獲得している。デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にし、アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する。
オブザーバビリティプラットフォームの導入を検討した理由について、satto workspaceの開発を指揮するソフトバンク IT統括 iPaaS事業開発本部 プロダクト開発課 担当部長の田口悠希氏はこう説明する。
「satto workspaceでは、サービスの開発・稼働基盤としてAmazon Web Services(AWS)とGoogle Cloud Platform、Microsoft Azureのマルチクラウドを採用し、かつ、お客様(ユーザー企業)の情報を保護するためにシングルテナントでサービスを提供します。そのため、テナントごとにサービスの状態を監視しければならず、お客様の数が増えるにしたがって、その業務負担が大きく膨らむことが予想されました。その課題を解決するには、オブザーバビリティによって数百、数千規模のテナントの状態を統合監視できるようにすることが必要でした」
ソフトバンク株式会社 IT統括 iPaaS事業開発本部 プロダクト開発課 担当部長 田口悠希氏
また、オブザーバビリティ採用の背景には、ビジネスと開発、運用が一体となってプロダクトの価値を高めていくBizDevOpsの構築を目指していることもある。
田口氏は「BizDevOpsを実現するための最初の一歩はDevOpsの実現ですが、そのためにはソフトウェアプロダクトを開発したエンジニアが、その運用を自ら担える能力を身につけることが重要です。そのための有効な手段の1つが、オブザーバビリティの獲得であり、それによって、プロダクトの状態をつぶさにとらえられるようにすることが必須と考えました」と説明し、こう続ける。
「BizDevOpsにおけるビジネスの観点からいえば、サービス運用のクラウドコストを適正化することも重要ですし、サービスレベル目標(SLO)のもとでサービス品質を良好に保ち、良質なユーザー体験を提供し続けることも大切です。そのためにも、オブザーバビリティによって、サービスのフロントエンド、バックエンド、そしてインフラから重要指標を収集し、分析・可視化することが不可欠でした」
AI駆動開発の深化を見据えた先進性からNew Relicを選択
オブザーバビリティを実現する製品がNew Relic以外にもある中、New Relicを選んだ最大の要因として田口氏は、New Relicの先進性を挙げる。
「satto workspaceの開発においては、良質な開発者体験を提供し、その生産性を最大限に高めるべく先進のフレームワークを採用し、かつ、GitHubプラットフォームとコーディング支援のAIツールを使った開発プロセスの自動化・効率化も図っています。結果として、非常に高い開発生産性を実現し、例えば直近の半年間では1万回以上のCI/CDサイクルを回せています。そうした環境を整備する中で私の目に留まったのが、New RelicがAIを使ったコーディング支援ツール『GitHub Copilot』 にインテグレートされ、アプリケーション性能の最適化やデプロイメント管理にフィットしたインサイトを提供するとの発表でした。こうしたAIエージェント同士が協調していく世界観で、開発者体験を向上させていく先進的な取り組みは、他社のオブザーバビリティ製品には見られないものです。そこに私は深く共感し、オブザーバビリティの実現に向けてはNew Relic以外の選択肢はありえないと判断しました」
加えて、New RelicがCI/CDプロセス全体の観測に適していることや、インフラをコード化するための「IaC(Infrastructure as Code)」フレームワークに対応している点も採用のポイントになった。
この点に関して田口氏は「我々はCI/CDプロセス全体を観測し、問題の早期発見に役立てようとしていたので、オブザーバビリティ製品には開発、QA(品質保証)、テスト、ステージングの各環境の監視を体系的に行える能力を求めました。また、デリバリーの失敗を回避する目的でインフラ(の構成)をコードで構築・管理しているため、オブザーバビリティの仕組みもIaCフレームワークによって構築可能であることが重要でした。New Relicはそうした要件もしっかりと満たしていました」と説明する。
導入にあたりNew Relicは、ソフトバンクとしての製品選定基準にも問題なく適合したという。さらに、New Relicの料金体系や製品のサポート品質も高く評価された。
New Relicの料金体系に関して、田口氏は「オブザーバビリティ製品の中には、観測対象のサービス数をベースに料金を決めるものがあります。こうした製品をシングルテナントでのサービス提供を予定しているsatto workspaceに適用すると、ライセンス料が膨大になります。それに対し、New Relicはユーザー数ベースの料金体系のため、satto workspaceを使うお客様がいくら増えてもライセンス料が膨れ上がる心配がなく、かつ、コストの調整が行いやすいという利点がありました」と述べる。
またサポート品質の高さについても田口氏は「New Relicの皆さんは、我々の要望や問い合わせへのレスポンスが常にクイックで適切です。技術面でのサポート品質も高く、担当のソリューションコンサルタントの方には、New RelicエージェントをAWSに組み込むための技術サポートや、オブザーバビリティのコード化に向けたサンプルコードも数多く提供していただきました。このようにして、我々のスピード感に合わせた伴走型の手厚いサポートを提供してもらえたことで、2025年冬のパイロット提供の準備にも間に合わせることができ、とても助かりました。このようなサポートは、他社ではなかなか見られないものです」と評価している。
PoCを通じてNew Relicの有用性を確認 BizDevOps実現に向け活用の幅を広げる
田口氏らは、2025年4月にNew Relicの導入作業を始動させ、satto workspace の主要な機能を配置しているAWSへエージェントを組み込み、PoCをスタートさせた。現在(2025年11月現在)は、そのPoCが完了したばかりの状況にある。
田口氏は「現在は、IaCフレームワークによるオブザーバビリティのコード化を進めているほか、BizDevOps体制の確立に向けて、New Relicの利用者を、satto workspaceの開発エンジニアやSRE担当者から、プロダクトオーナーやQAエンジニア、カスタマーサポートやカスタマーサクセスを担う石原たちのチーム(ユーザーリレーション課)へと広げつつあります」と説明する。
田口氏によると、PoCを通じて、New Relicの有用性・実効性がさまざまに確認できたという。
「例えば、New Relicによってシステムのエラーが非常に追いやすくなりました。従来型の監視ツールでは、エラー発生の報告を受けてから、いくつもの画面を行き来しながら、ログやコード、データベースなどの状態を確認し、エラーの原因を突き止めなければなりませんでした。それがNew Relicでは1つの画面で、ユーザーごとのサービスの状態が確認できます。これにより、エラー発生時の原因特定と問題解決までのリードタイムが非常に短くできると感じています。また、タスクごとのメモリやCPUの使用状況も、ダッシュボードで一元的に確認できるので、テナントごとのリソースをチューニングしたり、コストを適正化したりする作業も効率化できています」(田口氏)
加えて、田口氏らは、ユーザーリレーション課と連携しながら、SLOを設定する作業にも取り組んでいる。それも踏まえて石原氏は、New Relic活用の今後に以下のような期待感を示す。
「カスタマーサポートやカスタマーサクセスを担う我々にとって、satto workspace のサービスレベルが目標どおりに維持されることはとても重要です。また、カスタマーサクセスのためには、問題の早期解決と問題へのプロアクティブな対応の2つを実現しなければならず、これらを実現するうえで、New Relicはきわめて有効に機能すると期待しています」
さらに、石原氏は「New Relicによる可視化によって、カスタマーサポートやカスタマーサクセス担当者と開発エンジアとの意思疎通が円滑になるはずです」と指摘し、以下のように説明する。
「New Relicを用いることで、お客様がプロダクトのどの部分に対して不安や不満を抱いているかを、エビデンスとなるデータを用いて表現し、開発エンジニアと共有することが可能になります。カスタマーサポートやカスタマーサクセス担当者は、プロダクトに対するお客様の不安や不満といった情報を開発エンジニアに伝える役割を持っていますが、定性的な情報を開発エンジニアが理解し、対処できるかたちで伝えることに苦労することもありました。New Relicが収集してくれるユーザー体験などの定量的なデータは、お客様と日々相対する非エンジニア部門と開発エンジニアとの「共通言語」となるものであり、部門を超えたコミュニケーションがかなり容易になると見ています」
一方、田口氏は、AIによる開発プロセスの変革を主導する立場から、New Relic活用の今後について次のような抱負を示す。
「おそらく今後数年以内に、ソフトウェア開発の現場ではGitHub CopilotなどのAIツールの利用が一般化し、それに伴いNew Relicのようなオブザーバビリティプラットフォームの利用が活発化するはずです。というのも、オブザーバビリティプラットフォームがシステムのあらゆる構成要素から収集・分析した情報を、コーディング支援のAIツールに取り込むことで、経験の浅いエンジニアでもAIが生成したコードを適切に修正してデプロイできるようになるからです。そんな将来に向けて、我々もNew RelicとAIツールを連携させ、コード上の問題の検知から原因特定、修正までを自動化できるようにしていく考えです」
市場投入前にオブザーバビリティを獲得 プロダクトの強みとしてNew Relic活用を訴求
iPaaS事業開発本部では、satto workspaceの強みとしてNew Relicによるオブザーバビリティの実現を広く訴求していくことも視野に入れている。
石原氏は「satto workspaceを法人のお客様に拡販していくうえでは、本プロダクトの信頼性をしっかりと確保するのと併せて、それが信頼に値するサービスであることを訴求する必要があります。その意味で、New Relicによる観測は、プロダクトの信頼性と信頼感を高める要素といえ、satto workspaceの大きな強みの1つになりうると見ています」
この言葉を受けて、田口氏もこう述べている。
「我々は、satto workspaceのサービス品質を保証するためにISO規格の取得も計画しています。そのためにも、New Relicによるオブザーバビリティの実現は有用ですし、New Relic社とともにNew Relicをどのように活用し、プロダクトの信頼性を高めているかを広く発信し、販促に生かしていければと思っています。プロダクトやサービスのローンチ前にオブザーバビリティを獲得しておくケースは、まだそう多くないと聞いていますが、我々の視点からすれば、このプロダクトはオブザーバビリティの獲得なしには立ち上げられなかった製品だったと言えるでしょう。プロダクトの価値向上と、BizDevOpsの実現・加速に向けて、New Relic 日本法人には今後も一層のサポートを期待しています」