飯塚 大介 氏の写真

オブザーバビリティの民主化で、
「不苦労」なSAP運用実現を目指す

飯塚 大介(いいづか だいすけ)氏
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(略称:CTC)
産業ソリューション事業グループ ERPソリューション第1部

日本がITバブルに沸き立つよりも少し前、「これからはITの時代だ」という先見の明を持ち、高校時代の文系から大学は理系にスイッチし「経営情報学部」に進学。統計学など高度な数学を前提とした理系科目に苦戦しながらも、最前列で熱心に講義を聴き克服したという努力家である。大学の研究室で早くもSAPとの出会いを果たし、新卒でCTCの前身である株式会社CRCソリューションズに入社してからも運命に導かれるように一貫してSAPスペシャリストとしてのキャリアを積んでいる。

■クラウド移行後の分散配置的なシステム構成に欠かせないオブザーバビリティ
― いつごろ、どのようなきっかけでオブザーバビリティと出会われたのでしょうか。

新卒でエンジニアとして採用され、最初に配属されたのがSAPの運用・維持保守担当でした。ERPとその代表的ソフトウェアであるSAPについては大学の研究室で他の学生が調査をしていたことからどんなものかは認知していましたが、まさか自分が関わることになるとは思っていませんでした。

SAPはBasis(ベーシス)と呼ばれる共通のインフラ基盤の上で各業務モジュールが動くという階層構造になっており、業務モジュールではシステム的な知識だけでなく、その業務に関するかなり専門的な知識を求められるのが一般的です。そのため、一口にSAPエンジニアと言っても、Basisとモジュール、またそれぞれの業務モジュールごとに高い専門性があるため、専門外についてはほとんど知識がないということも珍しくありません。

ところが私の場合、運用・維持保守業務の過程で元々担当していたBasis業務に加え管理会計等の会計モジュールも担うことになり、結果としてモジュールの知識を併せ持つBasisエンジニアとしてキャリアを積むことができました。これは一般的なBasisエンジニアとは異なる、自らの大きな武器になったと感じています。

その後しばらくはオンプレミス版SAPの運用・維持保守業務に携わっていましたが、オブザーバビリティに関心を持つきっかけとなったのがクラウド版SAPのチームに配属されたことでした。オンプレミス版はシステムを業務に合わせる「Fit & Gap」という考えが主流だったため、アドオンと呼ばれる追加開発をして作りこまれているケースがほとんどです。しかしながら、パブリッククラウド版SAPである「SAP Cloud ERP」は半年に1回強制的にバージョンアップされる仕様で、オンプレミス版と同じやり方ではその都度大量の検証が必要となり、実質的に運用が追いつかなくなるという課題がありました。

その課題を解決するには、従来のやり方を捨て、根本的に発想を転換し、システムの中核部分には原則として追加開発を加えない「クリーンコア」の手法を取り入れる必要があります。その場合、従来追加で作りこみをしていた部分については他の汎用的言語によるプログラムも動かせるBTPという周辺基盤上で動かすことになります。従来のモノリシック(一枚岩)的なシステム構成から、SaaSやPaaSなどを含む複数のシステム・サービスを組み合わせて利用する分散配置型への転換です。

ところがここでまた新たな課題に直面します。モノリシックでは比較的単純な監視で保守運用が可能でしたが、分散配置型の場合システム構成が複雑になるので、そもそも監視体制を構築することすら困難という状況だったのです。そこで必然的にシステムの情報を一か所に集約して一元管理する、オブザーバビリティが必要不可欠であるという結論に至りました。そこから複数のオブザーバビリティサービスを比較検討した結果、クラウドを含めたSAPエコシステムともっとも相性のいいツールがNew Relicでした。

■SAPにつながるすべてのシステムをNew Relicで一元可視化する「Figues Owl」
― オブザーバビリティ普及のためにどんな取り組みをされたのでしょうか。

クラウド版SAPチームによる研究開発を経て、弊社では現在「Figues(フィグ)」というSAP Cloud ERPの導入ソリューションサービスを提供しています。「Figues」はフランス語で無花果(イチジク)のことです。クリーンコアの手法を取り入れていることから、

追加開発「無」しで 
S/4HANA(花)を導入し 
成「果」を出す 
 

つまり、「無花果(イチジク)=フィグ」を実現するサービス、というのが名称の由来です。

また、Figuesサービスの一環として、オブザーバビリティ統合ソリューション「Figues Owl(フィグオウル)」の提供もスタートしました。これは、SAP社が提供する周辺基盤であるBTPがまだ「SAP Cloud Platform」と呼ばれていた黎明期にNew Relicと出会い、その後New Relic社の方々と共に研究してきたことが結実したものです。

初期段階ではAPMに着目してNew Relic社の方々と研究した結果、SAP社が提供する周辺基盤であるBTPとその上のカスタムアプリケーションでNew RelicのAPMを使用することは非常に相性が良いということを突き止めました。実はSAPにも「SAP Cloud ALM」という専用オブザーバビリティプラットフォームがあるのですが、現在はまだ発展途上であるため、SaaS版のSAPシステムの情報は利用できますが、非SAPシステムの情報収集にはどうしても弱く、またSAP関連システム内においても一部機能が提供されていないという難点があります。例えば、Amazon EC2などIaaSのオブザーバビリティデータはSAP Cloud ALMでは取得できません。一方、外部のオブザーバビリティプラットフォームではSAPのSaaSを直接見ることができないため、結局システム全体の流れを把握することができません。

オブザーバビリティの肝はいかに1ヶ所に情報を集約できるかにあります。複数のオブザーバビリティプラットフォームを使用することになると、運用・維持保守業務担当者に大変な負担となるからです。しかしながら、SAP Cloud ALM で不十分な部分のうち、可能な範囲はNew Relicでカバーするという方法では、運用・維持保守業務担当者が参照するオブザーバビリティプラットフォームは依然として2つのままです。この課題を解決するため、SAP Cloud ALMとNew Relicを連携し、New Relic側での一元可視化を実現したのが「Figues Owl」です。

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 飯塚 大介 氏の写真

■サービス名称Owlに込めた思い
― オブザーバビリティが活きる具体的な事例を教えてください。

Figues Owlの提供はまだ始まったばかりなので、具体的な事例はこれからなのですが、サービス名称「Owl」には特別な意味があります。

Owl、つまりフクロウは基本的に夜行性で夜目が利くので、システムの状態を常に見守り可視化するオブザーバビリティを象徴する存在としてうってつけだと思ったのです。そして、もう一つ「不苦労」、つまり苦労しない、という意味も込められています。先ほども述べたように、SAPエンジニアは領域ごとの専門性が高く代わりがききにくいため、特定の人に負荷が集中してしまうことがあります。私自身、運用保守を担当していた時は夜中に起こされて眠い目をこすりながら対応し、翌朝寝不足のまま出社して障害報告をする、といった苦労を身をもって体験しています。オブザーバビリティの導入はそんなSAPエンジニアたちの苦労を軽減することにつながるのです。これからFigues Owlを通して少しでも多くそういう事例を増やしていきたいと考えています。

■サイロ化打破に向け、社内の啓蒙活動を強化
― オブザーバビリティの普及に取り組まれる中で、課題だと感じていることはありますか。

従来のオンプレミス環境では限定された範囲のみ監視することが一般的でした。しかしながらクラウドネイティブな環境においてはシステム全体を俯瞰し、問題を把握していくという根本的な発想の転換が必要です。私自身もその感覚に慣れるまで時間を要したので、それが簡単ではないということは分かっているつもりです。

ただ、特に大企業に多いのですが、システムごとにサイロ化されていて、それぞれが縦割りで監視をしているというケースでは、横串を通して管理するオブザーバビリティの重要性を理解してもらうことが非常に難しいと感じています。売上が伸びるといったように導入効果の数値化が難しいことも課題の一つです。

現状を打破するには、まず経営層が強い意志を持ってトップダウンで推進することが大事です。それには説得力を持つ事例を増やしていくことがポイントになるので、まずは社内でオブザーバビリティの重要性を理解している仲間を増やし、提案力をアップすることから取り組んでいます。

■Figues Owlでオブザーバビリティの民主化を目指す
― 今後の取り組みについて教えてください。

New Relicの「New Relic Monitoring for SAP Solutions」は自社開発オブザーバビリティ製品として唯一SAPのCertified Solution(認定ソリューション) となっていますが、Figues Owlではそれも活用しつつ、パブリックもプライベートも非SAPのSaaS製品もまとめてNew Relic上で可視化することができます。New RelicのSAP監視事例では、システムの流れが可視化されたことにより、部門横断的にデータや知見の共有が進んでいると聞いています。Figues OwlはSAPエコシステムとNew Relicの橋渡しをするソリューションであり、真の目的はシステム全体のオブザーバビリティの最適化です。それが実現すれば、さらに多くのケースでエンジニアの負荷を軽減し、かつビジネス部門の理解を助けることが可能になります。システム部門を超えオブザーバビリティの活用が各部門に浸透するような「民主化」事例が増えてくれば、効果がより明確になり、導入ハードルも下がるのではと考えています。

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 飯塚 大介 氏の写真

■オブザーバビリティ導入は新しい成功体験の第一歩
― 最後に、読んでいただいた方へのメッセージをお願いします。

New Relicは使い勝手がいいのはもちろんですが、ライセンス体系がわかりやすく、データ量に応じた課金システムなので、「小さく始められる」という利点があり、SAPでの導入実績も増えています。弊社も運用保守の苦労も含め、SAPについて豊富な知見がありますので、さまざまなニーズに寄り添い、お客さまのビジネス成功に向け伴走することが可能です。ぜひオブザーバビリティという新しい一歩を一緒に踏み出しましょう。