利用用途
システム停止や性能低下が許されないガス・電気利用の「受付システム」を監視し、その状態を可視化。組織の壁を超えた信頼性向上とサービス改善の取り組みを実現
New Relicの導入目的と成果
- 月間最大300万のリクエスト件数を処理する、ライフライン(ガス・電気)の使用・停止に関する受付システムの信頼性の向上
- 引っ越しシーズンなど、繁忙期に膨大なアクセスが集中する受付システムの停止や性能低下の防止
- 東京ガス・グループIT会社・アプリ開発の3社がワンチームとなり、オブザーバビリティによるシステムデータの共有で、組織の壁を超えたDevOps体制を構築
- システムのリリース直後の繁忙期も、開発・運用間のデータの共有・活用により難局を切り抜け
- DevOps体制の整備により、問題発生時の対応方針の策定・意思決定にかかるスピードが6倍に向上
- アプリケーションの問題調査に要する時間を10分の1に短縮
利用製品
- New Relic APM
- New Relic Infrastructure
- New Relic Synthetics
- New Relic Logs
- New Relic Alerts
- New Relic Dashboard
- New Relic Browser
1日10万件のガス・電気の受付処理を高信頼に
東京ガスは、エネルギー事業を主力としながら年間でグループ連結2兆6,368億円(2025年3月末時点)を売り上げる国内最大の都市ガス事業者だ。首都圏1都6県を中心に都市ガスや電力を安定供給しているほか、一般家庭や法人の効率的なエネルギー利用を促進する各種ソリューションも提供。同社が供給するガス・電気の顧客数(契約延べ件数)は2026年1月時点で約1,300万件に及ぶ。
エネルギー事業の社会的な重要性について、東京ガス エネルギー事業革新部 オペレーション改革グループ チームリーダーの小川 靖史氏は「当社が供給しているガス、電力は、日本の中枢である首都圏での暮らし、社会を支えるライフラインです。止まってしまったら人々の生活や社会が成り立たず、その事業責任は重大なものです」と説明する。
東京ガス株式会社 エネルギー事業革新部 オペレーション改革グループ チームリーダー 小川 靖史氏
ライフラインへの入口として機能しているのが「TG-WISP(Web Interface Service Platform)」と呼ばれる「受付システム」だ。これはガス・電気の開始・停止の手続きなどを、Webを介して行うための仕組みである。ガス・電気の開始・停止を含めてサービスメニューの数は80に上り、一般の生活者が必要に応じて使用しているほか、生活者からのリクエストを電話等で受け付ける東京ガス コンタクトセンターのオペレーター約600名も日常的に使用している。ゆえに、システムへのアクセス数は膨大になる。
小川氏は「TG-WISPの利用者数は、通常期は1日平均で1万2,000名に上り、2月から4月にかけての繁忙期(引っ越しシーズン)はアクセスが集中し、1日平均の受付数が実に10万件に達します」と明かす。
一方で、TG-WISPには24時間365日の安定稼働が強く求められている。
小川氏は「TG-WISPはライフラインへの入口ですので、停止はもとより、性能の低下も原則許されません。実際、繁忙期にシステムのパフォーマンスが落ちたりすると、相当数の問い合わせ、クレームが即座に寄せられます。システムが利用できないといった障害が生じた場合には、国(経済産業省)への報告義務も発生するほど重要なシステムです」と説明を加える。
TG-WISPのパフォーマンスを恒常的に安定させ、ユーザー体験を良好に保ち続けるための一手として、東京ガスが採用したのがオブザーバビリティプラットフォームのNew Relicである。
オブザーバビリティの実現により、組織の壁を超えたDevOpsへ
New Relicは業界を代表するオブザーバビリティプラットフォームであり、国内では48%のトップシェアを獲得している。デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にし、アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する。
小川氏によれば、同社がNew Relicを採用した背景にはTG-WISPの成長・発展の歴史があるという。
「TG-WISPはもともと、オンプレミス環境で動作する小さなシステムで、100名程度のユーザーを対象にしたものでした。ただ、利用者の数と機能がどんどん増えていき、2022年にシステムのインフラを『Microsoft Azure』へと移行させました。このようにシステム改修を重ねる中で2023年6月にNew Relicを導入したのですが、のちにコンタクトセンターのオペレーターが使うメインの受付システムを刷新し、TG-WISPのインフラを大きくスケールするとともに、システム全体を改修することになりました。結果として、オブザーバビリティの重要性がさらに高まったといえます」(小川氏)
なぜオブザーバビリティのニーズが生まれたのか。小川氏はこう答える。
「東京ガスのメインの受付システムとなったTG-WISPは、膨大な数の利用が想定されたうえに、APIを通じてさまざまな外部システムとも連携させなければなりませんでした。さらに、ユーザーや事業のニーズに応じて、機能の追加、変更、性能の向上も継続的に図っていく必要があります。そんな中でTG-WISPの安定稼働を実現し、ユーザー体験を良好に保つ上では、外部システムとの連携部分を含めて、システム全体をくまなく監視しながら、異常やその兆候をとらえ、問題への速やかな対応、ひいてはプロアクティブな対応を実現しなければなりません。この実現のために行き着いたのがオブザーバビリティでした」
もう1つ、オブザーバビリティ製品の採用には、TG-WISPのプロダクトオーナーである東京ガスと、運用を担う東京ガスグループ唯一のIT子会社である東京ガスiネット、そして開発を担う協力会社のサーバーフリーの3社で効果的なDevOps体制を築くという狙いもあった。
小川氏は「東京ガスiネットには、TG-WISPのインフラに関する専門知があり、サーバーフリーはアプリケーションに関する専門知があります。当社を含めた3社がオブザーバビリティのデータを共有し、一体となってシステム上の問題に当たるようにすれば、問題解決のスピードが増し、TG-WISPの信頼性が高いレベルで維持できると判断しました」とする。
オブザーバビリティの全社展開を視野にNew Relicを選択
小川氏からの要請を受け、オブザーバビリティの導入を検討し、New Relicを選定したのは、東京ガスiネットのDXスペシャリスト部 兼 オープンインフラユニット に所属する村山 領氏だ。
東京ガスiネット株式会社 DXスペシャリスト部 兼 オープンインフラユニット 村山 領氏
New Relicを選んだ理由について、村山氏は「New Relicが他社製品よりも優れているのは、単一のプラットフォーム上でインフラ、アプリケーション、ユーザー体験などをそれぞれ監視する機能がフルスタックで提供されている点です。料金体系が他社のような機能ごとの課金ではないので、機能の追加で料金が上がることもありません。そのため、コストアップの心配をせずに、機能の有効性を1つずつ検証しながら、必要なものを追加していくといった使い方ができることが、採用の決め手になりました」と説明する。
また、New Relicを選定した背景には、東京ガス全社にオブザーバビリティを展開するというねらいもあった。
村山氏は「我々はクラウドでのインフラの構築・管理を自動化する目的でIaC(Infrastructure as Code)ツールを使用しています。New Relicは、IaCツールを使ってダッシュボードなどのテンプレートを多数のシステム観測用に横展開できます。New Relicを採用すれば、オブザーバビリティの全社展開が図りやすくなると考えました」と振り返る。
さらに、小川氏はNew Relicを評価したポイントについてこう説明する。
「New Relicは、観測結果を誰が見てもわかりやすくグラフィカルに可視化する能力が非常に高いと感じました。システム上の問題を目視でとらえ、理解するためにはとても大切な機能で、私自身、New Relicのダッシュボードを個人用のモニターに常に表示させて、TG-WISPに問題が起きていないかどうかを確認しています。経営陣にTG-WISPの状況を理解してもらう上でも、ダッシュボードによる可視化はとても役に立っています」
小川氏の個人用モニターに表示されたダッシュボード。東京ガスを含めた3社の関係者が、TG-WISP(受付システム)の稼働状況をダッシュボードで常時確認
DevOps体制の整備で、意思決定が6倍に高速化
東京ガスでは、2023年よりNew Relicの導入プロジェクトを始動させ、外形監視機能の「New Relic Synthetics」を皮切りに、APMやインフラ監視といった各機能の検証を段階的に推し進め、本番運用へとつなげていった。
それと並行して、3社共同でのDevOps体制づくりにも取り組んだ。
体制づくりについて、村山氏は「3社共同のDevOps体制といっても、当初はNew Relicのダッシュボードなどを通じて観測結果を共有してはいるものの、問題への対応はそれぞれが個別に当たり、都度、連絡を取り合うといったものでした。それが最近では、問題の発生をきっかけに3社の関係者全員がすぐにWEB会議で集まり、問題原因の特定から対応方針の意思決定までをその場で行うスタイルに切り替えています」と明かす。
村山氏は、DevOps体制の整備がもたらした効果を次のように説明する。
「問題発生時に関係者全員が集まり、New Relicのデータを共通言語として閲覧・深掘りしながら対応を協議するようしたことで、以前は何らかの問題が起きてから対応方針とアクションを決めるまでに3時間程度かかっていたのが、今では30分程度で意思決定が下せています。意思決定スピードがおよそ6倍に高まったといえます」
開発・運用の現場業務も効率化 3社が三位一体となりプロダクトを改善
New Relicの活用は、TG-WISPの運用・開発の各現場にも相応のメリットをもたらしている。
村山氏は「例えばNew Relicでは、1件のリクエスに対する一連の処理を一意に識別する『トレースID』を通じて、ログを処理の流れとして取り出せます。従来、アプリケーションで問題が発生していることがわかっていても、インフラ担当が原因究明に踏み込んで貢献することは困難でした。しかし、トレースがあることでソースコードを読まずとも処理の前後関係を把握でき、通信内容などの実態を確認しながら、問題の切り分けを進められるようになりました」と述べる。
村山氏と同じく東京ガスiネットでTG-WISPの運用に携わっている、システムエンジニア部 兼 オープンインフラユニットの大坪祥伍氏は、New Relicの効果について「以前は気づけなかった問題に気づけるようになった点が大きいと感じています」と語る。
「New Relicにより、TG-WISPにおけるどの部分の処理が、どれだけインフラのリソースを消費しているかが正確に見えるようになりました。結果として、データを根拠にリソースの最適化が行えるようになりました。リソースを過剰に確保してしまう無駄を避けるなど、クラウドコストの適正化が図りやすくなっています(大坪氏)」
東京ガスiネット株式会社 システムエンジニア部 兼 オープンインフラユニット 大坪 祥伍氏
一方、TG-WISPの開発に携わっているサーバーフリー 2グループ1チーム リーダーの川元 佳一郎氏は、New Relicによる業務の効率化についてこう説明する。
「TG-WISPでは、多くのシステムが連携して動いています。こうした仕組みでは、エラーのアラートが発出された場合、1件の処理の流れをたどりながら、さまざまなシステムからログを大量に収集して分析をかけなければならず、多大な労力と時間を要するのが一般的です。ところが、New Relicなら1画面のダッシュボードですべてのシステムのログが見られます。これにより、通常の10分の1程度の時間で1件の調査を終えられています。今後、システムが増えていく際にもNew Relicがなければ限られた人員では対応できません」
サーバーフリー株式会社 2グループ 1チーム リーダー 川元 佳一郎氏
サーバーフリーでは、TG-WISP向けのソフトウェアについて、リリース前のテスト段階からNew Relicによる監視を行い、品質をチェックしている。それを踏まえつつ、サーバーフリー代表取締役の角谷 潤氏は「New Relicの活用によって、アプリケーションに関してピンポイントで『どこが悪いのか』が明確になり、改善の取り組みを無駄なく進めることができています。実際、New Relicの活用により、TG-WISP向けのアプリケーションを改善するスピードは着実に上がっています」とする。
サーバーフリー株式会社 代表取締役 角谷 潤氏
角谷氏の言葉を受けて、東京ガス エネルギー事業革新部オペレーション改革グループの塚田 智幸氏は「サーバーフリー、東京ガスiネットにおけるNew Relicの積極的な活用によってTG-WISPの品質、信頼性は確実に高まっていると感じます」としたうえで、こう続ける。
「私は、New Relicの活用を通じてログを見る機会が増え、システムの中身に関する理解が深まりました。一般的には、私のようなプロダクトオーナー側の人間がプロダクトのログを見るようなことはなく、私自身もNew Relicがなければ、ログを見ようとは考えなかったはずです。その結果、システムの中身が何もわからず、問題への対応を含めてすべてを開発、運用のチームに丸投げしていたと思います。その意味で、New Relicによるデータの可視化は、プロダクト改善の実務に自らかかわろうとするオーナー側の意識を強める効果があると見ています」
東京ガス株式会社 エネルギー事業革新部 オペレーション改革グループ 塚田 智幸氏
システムへの安心感を確立し、活用深化と全社展開へ
New Relic導入の数々の効果から、小川氏は本製品に大きな信頼を寄せている。
「メインの受付システムとしてTG-WISPを2025年1月にリリースした際、リリース直後の繁忙期にトラブルが発生し、危機的な状況に陥りました。ただ、New Relicによる可視化と運用・開発双方の専門知が助けとなり、難局を切り抜けることができました。仮にNew Relicを使っていなければ、トラブルはより深刻な事態になっていたでしょう。今日では、New Relicがあるおかげで、TG-WISPの稼働に対して大きな安心感を抱けています。これからは、New Relicが収集したデータからトラブルの予兆をとらえ、障害へのプロアクティブな対応を実現していきたいと願っています」(小川氏)
また、村山氏はTG-WISPでの成功を糧にしながら、東京ガス全社へのNew Relicの横展開に乗り出す構えだ。
「TG-WISPでのNew Relicの活用を通じて、我々のもとには相当の知見がたまっています。それを生かしながら、当社が運用する東京ガスのさまざまなシステムのオブザーバビリティをNew Relicで実現していく考えです。計画が進めば、東京ガスのシステムの安定稼働を支えるソリューションとして、New Relicが担う役割はますます大きなものとなるはずです。New Relicには、東京ガスのグループ一体となった信頼性向上とプロダクト改善の取り組みに対し、今後も変わらぬサポートを期待しています」(村山氏)