利用用途
事業部門の主導で、クボタの農業機械を支えるクラウド型のサービス部品カタログ「Kubota-PAD」の観測にNew Relicを活用。システム障害へのプロアクティブな対応により、24時間365日の安定稼働※を実現
※New Relic 導入後1年間にわたり重大なシステム障害発生なし。
New Relicの導入目的と成果
- 「Kubota-PAD」に関わるシステム障害の検知と対応のスピードアップ
- 事業部門(LOB)がNew Relicを選定・導入し、早期に立ち上げ・活用成熟
- 観測結果を軸にした開発パートナー、IT部門との障害対応体制の確立
- SLI/SLO(サービスレベル指標/目標)に基づく定常的なシステム観測の実現
- システム障害へのプロアクティブな対応を実現
- 障害発生から検知・対応にかかる時間が、従来の最大4時間から“ゼロ”ベースに
- システム性能のボトルネックを特定する手間を従来の4分の1に低減
- システム性能の継続的で速やかな改善を可能に
- ユーザーの行動を可視化し、需要分析や品質保証にも活用
利用製品
- New Relic APM
- New Relic Browser
- New Relic Infrastructure
- New Relic Logs
- New Relic Dashboard
- New Relic Synthetics
- New Relic Alerts
- Errors Inbox
- Key Transactions
- Service Level Management
クボタは1890年の創業以来、食料・水・環境分野における事業を通じて社会課題の解決に貢献してきた企業だ。農業・建設機械・産業用エンジンを扱う「機械事業」と、水道用鉄管・空調設備・水処理プラントなどを扱う「水・環境事業」を120カ国以上で展開。2023年度(12月期)の連結売上高は約3兆207億円に上り、うち海外売上が79%を占めている。また、農業機械のトラクタは世界の総生産台数が約560万台を超え、産業用エンジンは3,000万基を突破している。※1
※1 2023年12月時点
製品寿命が比較的長い農業機械・建設機械の中でも、クボタの多くの製品は、長期にわたって使い続けられている。それだけに機械の保守・整備など、製品販売後のアフターサービスが機械事業の中で極めて重要な位置付けにある。
そうした農業機械・建設機械のアフターサービスを支えるシステムの1つが、クラウド型のサービス部品カタログシステム「Kubota-PAD」だ。
そのKubota-PADの企画・開発を担っているクボタ カスタマーソリューション管理部 システム管理室で室長を務める岡田 哲氏は、Kubota-PADの重要性についてこう説明する。
「我々の重要なテーマの1つは、クボタの機械のアフターサービスを提供しているディーラーなどに対し、機械の保守・整備に必要なサービス部品とその情報を必要なタイミングでお届けし、機械を使うお客様の業務を止めないようにすることです。その取り組みを支える中核のシステムがKubota-PADです」
さらに岡田氏は、Kubota-PADについて次のように続ける。
「Kubota-PADには、当社が提供している数百万点に及ぶサービス部品の情報が集められていて、世界各国のディーラーなど約4万ユーザーが、このシステムを使ってサービス部品を探し当て、発注をかけています。ゆえにKubota-PADには24時間365日の安定稼働が強く求められます。また、この仕組みを通じてディーラーなどが必要なサービス部品を素早く見つけられるようにすることは、当社として逸失利益を防ぐことにもつながりますし、ディーラーによる保守・整備の品質を高める上でも非常に大切な取り組みです」
そうしたKubota-PADの安定稼働を実現するソリューションとして、同社が活用しているのがNew Relicだ。
New Relicは業界を代表するオブザーバビリティプラットフォームであり、国内では39%のトップシェアを獲得している。デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にし、アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する。
クボタでは2023年7月にNew Relicの採用を決定。本製品によるKubota-PADの観測を始動させた後、およそ1年間で、事業部門とシステム開発パートナーのタッグにより、大きな活用成果を上げている。
お客様の機械を止めないために。システム障害へのプロアクティブな対応を目指し、New Relicを選定
Kubota-PADにおけるNew Relic採用のきっかけは、2017年に始まったKubota-PADのクラウドサービス化と機能拡張の取り組みにある。
「Kubota-PADは従来、PCにインストールして使うタイプのシステムで、システムの稼働要件を満たしたPCでしか使えないといった問題がありました。そこで、Webブラウザ上で、かつどのようなデバイスでも動くKubota-PADの実現を目指して『Microsoft Azure』を基盤にしたクラウドサービスとしてシステムを作り直すことにしました。それと併せて、サービス部品の受発注システムなど、外部システムとの連携を推し進め、Kubota-PADの機能拡張を継続的に行っていこうと考えました」(クボタ カスタマーソリューション管理部 システム管理室 部品システム課 担当課長、財満 久雄氏)
この取り組みの成果として、今日のKubota-PADはPC、モバイルなどのマルチデバイスに対応した上で、サービス部品の検索機能のみならず、外部システムとの連携を通じて、サービス部品の在庫情報の確認や発注が行えるようになっている。ただ、そのような機能拡張を進める中で、システムの複雑化・データの肥大化が進行し、動作性能の低下やシステム障害が起こるようになっていたという。
「2018年時点のクラウド版Kubota-PADは、旧来のKubota-PADと同じく、必要なサービス部品を検索する機能しか提供していませんでした。そのため、動作性能上の問題はまったく起きず、安定稼働を続けていました。
しかし、さまざまな外部システムとの連携を進めていくうちに予期していなかったトラブルなど、課題も多くなってきました。」(財満氏)
農業機械を使う顧客の業務を止めることは、農家の収穫や売上を左右することにつながる。例えば国内農業でいえば、春の田植えや秋の刈り取りといった重要な時期があり、そこでの機械のダウンは深刻な影響がある。万が一機械が止まった場合は、すぐに整備する必要があるが、そうした緊急時にパーツカタログシステムが止まって部品の注文ができないという状況は起こしてはならない。
そこで、外部システムとの連携による複雑化や、データの肥大化が進む中でも安定稼働を維持する一手として、財満氏が着想したのがKubota-PADにおけるオブザーバビリティの実現だった。
「New Relicの導入以前、我々にはKubota-PADのユーザー体験を知る術(すべ)がなく、実際に性能が低下していたとしても気づくのに相当の時間が必要な状況でした。また、障害への対応についても、基盤(Microsoft Azure)の状況は把握できるものの、アプリケーションの状況が把握できず、感覚的に対応策を講じていたのが実状であり、障害の発生から対応・検知まで、最大で4時間程度の時間がかかっていました。そうした問題を一挙に解決するには、オブザーバビリティを実現するしかないと判断し、それがNew Relicの採用につながりました」(財満氏)
New Relicを選定した決め手について財満氏はこう説明する。
「New Relicを選んだ最大の理由は、システム障害に対するプロアクティブな対応を、オブザーバビリティで実現すべきビジョンとして明確に掲げていたことです。我々も事業部門として、Kubota-PADのシステム観測を通じて、システム障害へのプロアクティブな対応を実現したいと考えていました。New Relicのコンセプトは、我々の目標とピタリと合致するものだったのです」
また、財満氏はNew Relicの使いやすさと手厚いサポートも高く評価したと明かす。
「我々は、アフターサービスを支えるシステムの企画・開発・保守を担う部署で、インフラなどのシステム運用・監視はIT部門にほとんどを委ねてきました。そのため、オブザーバビリティプラットフォームには、システム運用・監視のスキル、ノウハウがなくても観測がしっかりと行える使い勝手の良さを求めました。また、製品のプロバイダーのみならずパートナーとして、オブザーバビリティによって我々が望む成果を得られるよう手厚く支援してくれる体制を期待しました。そうした要件もNew Relic 日本法人は十分満たしてくれたと考えています。特に、日々のサポートは秀逸で、我々のニーズに即したシステムの提案から実装までをしっかりと支援してくれました。このような高品質のサポートは比類なきものと言えます」
SLI/SLO(サービスレベル指標/目標)を定め、社内外連携で障害への予防的対応を実現
同社では、New RelicによるKubota-PADの観測を始動させたのち、部品システム課とKubota-PADの開発パートナー、そしてインフラの運用管理を担うIT部門の3者間でNew Relicによる観測結果を共有。New Relicによる観測結果を起点に、Kubota-PADの障害に3者が協力して対応する体制を確立している。
「例えば、New Relicによる観測によってKubota-PADの障害がリアルタイムに検知され、そのアラートがIT部門の監視システムに自動で送られて、データベースの再起動といったシステム復旧に必要な措置が即座に講じられるといった体制をすでに確立しています。また、その措置によってシステムが復旧しなかった場合には、New Relicによる観測結果をもとに、我々(部品システム課)と開発パートナー、IT部門で何を成すべきかを検討し、対応に当たるといったスタイルを取っています」(財満氏)。
加えて、同社ではKubota-PADのサービスレベルを計測するための指標として、SLI(サービスレベル指標)やSLO(サービスレベル目標)を独自に設定。それに基づいてKubota-PADの状態を定期的に点検する体制も敷いている。
「New Relicのダッシュボードを通じ、SLOの達成度、つまりはKubota-PADの状態を開発パートナーと週次でチェックしています。この定期点検によって、システム障害へのプロアクティブな対応が実現されたと言えます。クボタが設定したSLOの指標には、Kubota-PADにおける画面の描画スピードやデータの検索スピード、さらにはユーザーによるサービス部品の発注が正しく行われたかどうかといった項目が含まれています」(財満氏)
重大な障害発生から検知・対応にかかる時間を実質“ゼロ”ベースに。
性能ボトルネック特定の手間も4分の1へ(9人月の削減効果)
New Relicによる観測を始動させ、先に触れたシステム運用体制を部品システム課と開発パートナー、そしてIT部門との間で確立して以降、システム停止のような大きな障害は発生していないという。また、財満氏は「システム運用体制の確立によって、システム障害への対応スピードも間違いなく上がっているはず」と指摘し、以下のように続ける。
「例えば、SLOに基づくシステム状態の点検によって、ユーザーのクレームにつながるような障害にプロアクティブに対応できるようになりました。これにより、従来は最大で4時間を要していたシステム障害の発生から検知・対応にかかる時間が実質“ゼロ”になったと見ています」
この効果に対して、部品システム課の課長である篠原 良氏はこう評価する。
「我々の成すべき基本は、アフターサービスの業務を滞りなく進行させることであり、障害でシステムを止めてしまうことは是が非でも避けなければなりません。そのため、New Relicの採用により、重大なシステム障害が起こらなくなったこと、そしてシステム障害へのプロアクティブな対応が可能になったことを高く評価しています」
加えて、財満氏は、New Relicを活用することでKubota-PADの性能に負の影響を与えているプログラムが簡単に特定できるようになったと話す。
「Kubota-PADのシステムはかなり複雑化していて、New Relicがなければ性能のボトルネックになっているプログラムを特定するのに、開発パートナーの工数として12人月程度の工数を要していたはずです。その特定作業がNew Relicの活用により3人月程度で済むようになり、9人月の削減効果を生んでいます。この効果を生かしながらシステムのチューニングを推し進めることで、相当の性能改善が図れると見ています」
ユーザーの行動を可視化し、需要分析や品質保証へも活用。より良い事業運営へ
また、財満氏はNew Relicによって、これまで見えていなかったKubota-PADのユーザー体験やユーザー行動が可視化され、新しい気づきが得られるようになったと評価する。さらに同氏は、New Relicが収集したユーザーログを分析し、Kubota-PADにおいて「どのようなユーザーがどのサービス部品表よく閲覧しているか」といった情報を把握できるようにする取り組みも進めている。この取り組みに対して、岡田氏は次のように期待を寄せる。
「従来、どのサービス部品の人気が高いかを知るために、受注データをチェックしていましたが、よく使われているサービス部品であっても、ディーラーのところに在庫があれば、新規の発注はされません。ゆえに受注データだけでサービス部品の人気を測るのは無理がありました。それがログの分析によって、どのサービス部品の情報がよく閲覧されているかが『可視化』されれば、サービス部品ごとの人気度を、受注データを使った場合よりも正確に測れるようになります。また、特定の機械に向けたサービス部品が頻繁に閲覧されている場合、その機械の品質に対するクレームが起きている(あるいは、起きる)可能性があります。したがって、品質保証の観点からも、サービス部品の閲覧数を可視化する意義は大きいと言えます」
Kubota-PADを軸にサービス付加価値を広げる「サービスコンシェルジュ」のコンセプト実現へ
岡田氏が統括するシステム管理室では、Kubota-PAD以外にも数多くのシステムの企画・開発・保守を担当している。また、篠原氏が束ねる部品システム課では、Kubota-PADのほかにサービス部品の受発注システムや倉庫管理・輸送管理システムなど手がけているほか、サービス部品表マスター(=サービスBOM)の整備も進めている。
「サービスBOMの整備は、アフターサービスを支えるKubota-PADなどの各種システムにサービス部品表をしっかりとつなげるための取り組みです」と、システム管理室 部品システム課 第3チーム長の津本 篤氏は説明を加える。
さらに、システム管理室には「サービスシステム課」もある。同課の課長である堀内 厚弥氏は、その役割について「機械の保守・整備に必要な資料やトレーニングなどをオンラインサービスとして提供することを役割としながら、多様なシステムの企画・開発を手がけています」と説明する。
Kubota-PADは、システム管理室が手がける多くのシステムとすでに連携しているが、今後も連携の幅を押し広げ、Kubota-PADの「サービスコンシェルジュ」と呼ばれるシステム開発のコンセプトを実現していく構えだ。
「『サービスコンシェルジュ』とは、ディーラーなどに対して、サービス部品の情報と併せて、保守・整備に役立つ情報を網羅的に提供し、サービスの発展をサポートしていくための開発コンセプトです。例えば、当社ではIoTやAIを使い機械の故障診断を行う取り組みを推進していますが、そうした故障診断のシステムとKubota-PADとを連携させて、保守・整備に関する知識・ノウハウがあまりない人でも、適切なサービス部品を選び活用して、機械の保守・整備が問題なく行えるような情報提供の実現を目指しています」(財満氏)
この構想を実現するためには、より多くのシステムとKubota-PADとの連携が必要とされる。そのため財満氏は、New Relicによる観測の対象をKubota-PADにつながるシステムへと押し広げ、システム障害の原因をより広い視野で包括的に捉えられるようにしたいと期待している。それに対して、岡田氏も次のような見解を示し、話を終えた。
「Kubota-PADに連なるシステムをNew Relicで観測すれば、サービス部品の検索から発注、輸送配送へと連なるプロセスの状態をポイントごとに可視化し、それらが正常に動作しているかどうかが捉えられるようになるでしょう。そうなれば我々が運営するサービス/ビジネスがより一層可視化され、顧客満足やサービス品質を高めていくことにつながります。その実現に向けたNew Relicの適用範囲の拡大を前向きに検討しており、New Relicの皆さんには、我々の取り組みに寄り添った手厚い支援やサポートを、引き続きお願いしたいと思います」