利用用途
ECサイト「三越伊勢丹オンラインストア」をはじめとするシステムの安定稼働と顧客体験の向上、これを支える全社のSRE活動の推進にNew Relicのオブザーバビリティを活用
New Relicの導入目的と成果
- クラウドリフト/シフトと歩調を合わせたシステムモニタリングのモダン化
- 複数の外部サービスと連携するクラウドアプリケーションで問題解決を迅速化
- エンジニア150ユーザーがNew Relicのフル機能を活用しSRE活動を推進
- トータルで300ユーザーがNew Relicのダッシュボードを参照しデータドリブンの意思決定を実践
- サービス安定化を通じて三越伊勢丹グループ最大級の催事「サロン・デュ・ショコラ 2024」での売上拡大に貢献
- グループ役員や経営トップも見守る「イベント用リアルタイム分析ダッシュボード」を活用
利用製品
- New Relic APM
- New Relic Infrastructure
- New Relic Logs
- New Relic Synthetics
- New Relic Dashboard
- New Relic Alert
三越伊勢丹グループが、2024年3月期決算で好業績を発表した。総売上は前年比112%の1兆2,246億円、営業利益は同183%となる543億円に達するなど、百貨店業界におけるその存在感を改めて印象づけた。「高感度上質戦略」「連邦戦略」「個客とつながるCRM戦略」を打ち出した改革と成長へのチャレンジが大きな実を結んだ形だ。三越伊勢丹システム・ソリューションズ ICTエンジニアサービス部 CCoE第2担当長の齋藤昌紀氏は次のように話す。
「三越伊勢丹グループでは『館業』から『個客業』へのシフトを強力に推進しています。『個客』へのアプローチを磨き上げてきたオンライン事業も好調です。三越伊勢丹らしい上質な商品とサービスの追求、リアルとオンラインの融合によるお客様価値の向上といった取り組みが奏功し、『三越伊勢丹オンラインストア』に代表されるEC関連の年間売上は400億円を超えました」
三越伊勢丹システム・ソリューションズ(以下、IMS)は、三越伊勢丹グループのIT/デジタル領域を担う事業会社である。その中核を支えるバックエンドシステムの開発・運用・保守に加え、三越伊勢丹グループのオンライン事業を進化させる先端領域をも担う。実店舗とECサイトのシームレスな顧客体験、スマートフォン向けECサイトの強化、顧客データの分析と活用など、IMSが手掛けてきたモダンなシステムの役割は大きい。
「IMSでは、2021年にCCoE(Cloud Center of Excellence)を編成し、全社共通クラウド基盤の整備、クラウドリフト/シフトの推進、最新テクノロジーの評価・導入・定着化、エンジニアの育成を強化してきました。この一環として、オブザーバビリティプラットフォームNew Relicの導入と活用、SRE活動の全社への定着化をリードしています」(齋藤氏)
「顧客体験」を捉えながら改善活動を推進
New Relicは業界を代表するオブザーバビリティプラットフォームであり、国内では46%のトップシェアを獲得している。デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にし、アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する。CCoE第2担当 スペシャリストの井上諒氏は次のように話す。
「New Relicを導入したのは2021年です(当時の事例記事はこちら)。クラウド上のフロントシステムとオンプレミスの基幹システムを連携させるAPI基盤『三越伊勢丹ビジネスプラットフォーム(MI-BPF)』のトラブルシューティングを迅速化することが大きな狙いでした。その成果が認められて、2023年には私たちがSREのロールを正式に担うこととなり、CCoEによるNew Relicの全社への導入・活用支援が本格化しました」
IMSでは、アプリケーション開発チーム単位でNew Relicによるアプリケーションパフォーマンス監視、ログ監視、インフラ監視、外形監視などを行っている。開発チームはCCoEのサポートを受けながらNew Relicの活用を高度化し着実に効果をあげてきた。
「New Relicのフル機能を利用できるユーザーは150名に拡大し、ダッシュボードを参照する顔ぶれも、IMSの経営・マネジメント層から三越伊勢丹HDSのIT部門まで300名規模へと大きく広がりました。New Relicが収集した観測データに対し、それぞれの立場の人が欲しい情報を見たい形式や切り口で可視化することで、データに基づく意思決定が加速しています」(井上氏)
CCoEが主宰する『性能評価定例』には、開発チームのエンジニア十数名が参加し、システムの稼働状況やイベント情報などを共有しながらNew Relic活用の知見を高めているという。「三越伊勢丹オンラインストア」など顧客接点となるシステムでは、顧客のサービス体験を定量的に評価しながら改善への取り組みが進む。
「オンラインストアでは、Syntheticsによる外形監視を適用して、サイトへのアクセスを起点に、ログイン、商品検索、カート追加といった操作が正しく行えているか、不具合や遅延が発生していないかを常にモニタリングしています。フロントシステム単体ではなく、API基盤、バックエンド、外部連携システムを含めた『お客様体験=サービス』を捉えながら改善活動を進められるようになったことは大きな変化です。また、アプリケーションパフォーマンスなどの数値を、お客様体験を維持するための基準や判断材料にしていく取り組みも進んでいます」(井上氏)
New Relicの活用の進展とともに、問題検知から原因の特定、復旧までのプロセスも大きく変わった。ICTアプリケーションサービス2部 システム第6担当の宮川玲央氏は次のように話す。
「以前は、エラーやイベントを検知すると、膨大なログを解析して原因を推定し、手探りで対応に着手するという手順でした。New Relic導入後は、APMでアプリケーションパフォーマンスの全体感を把握ながら、詳細へと掘り下げてエラートランザクションを特定する流れに変わりました。これにより、問題解決までの時間が大幅に短縮化されただけでなく、アプリケーションパフォーマンスの傾向を見ながらお客様体験に影響するような問題が顕在化する前に対処できるようになっています」
「New Relicが起点となって、IMSという組織全体が『データドリブンの意思決定』に向けて動き出した実感があります。オブザーバビリティを活用してサービス品質を作り込み、より良いお客様体験を実現していこうという意識が会社全体に広がってきました」と井上氏は話す。
「サロン・デュ・ショコラ 2022」で売上を大きく伸長
New Relicの有用性を全社に知らしめた出来事が2022年初頭に起こった。三越伊勢丹最大級の催事「サロン・デュ・ショコラ 2022」でオンラインストアのシステム不具合が発生し、その解決にNew Relicが大きな役割を果たしたのである。ICTエンジニアサービス部 CCoE第2担当 スペシャリストの渡邉京氏は次のように話す。
「世界のチョコレートの祭典『サロン・デュ・ショコラ』は、日本では2003年に伊勢丹新宿店でスタートした人気の高いイベントです。店頭に先立って販売を開始する三越伊勢丹オンラインストアには、毎年多くのお客様にお越しいただき、2024年も前年を大きく上回る売上を達成するなど、三越伊勢丹グループ最大級のイベントとして大きな成長を遂げています。今年、入場するための『オンライン待合室』には2万人が並ぶほどの盛況ぶりでした」
その2年前、2022年のシステム不具合は、まさにサロン・デュ・ショコラ急成長の過程で発生した。オンライン販売初日の1月3日、想定を大きく上回るアクセスが予期しなかったトラブルを生み出したのである。
「私たちは、アプリケーション開発チームとNew Relicのダッシュボードを共有し、New Relic技術チームの支援を受けながら原因を絞り込んでいきました。ミドルウェアの動作、外部システム連携に原因があることを突き止め、わずか数日のうちに再開を告知し、1週間で販売を再開することができたのはNew Relic APMを利用できたことが大きかったと思います。全員が一丸となって取り組んだ結果、不具合の解決から再テストを経て、最短期間でサービス再開に漕ぎ着けることができました」と渡邉氏は振り返る。
販売を再開した1月10日、「サロン・デュ・ショコラ 2022」のオンラインストアでは、当時の最高売上を更新した。渡邉氏は「もし、New Relicが導入されておらず、問題箇所のシステムデータの収集がされていなかったら商機を逃していたかもしれない」と話しつつ次のように続けた。
「New Relicによる観測データが関係者全員の共通指標となりました。情報共有とコミュニケーションにNew Relicのダッシュボードが活用できたことが非常に重要です。IMSのエンジニアは、この経験を経てアプリケーションパフォーマンスを観測することの重要性を深く理解するとともに、New Relicに対する信頼を大きく高めました」
イベント用リアルタイム分析ダッシュボードの開発
現在IMSでは、報告用、定点監視用、利用集計など、目的ごとにNew Relicのダッシュボードを整備して情報を共有し様々な意思決定に活用している。中でも、井上氏を中心に開発された「イベント用リアルタイム分析ダッシュボード」の実用性は高く、百貨店総合サイトのフロントエンド、バックエンド、保守のメンバーや化粧品専用サイトのメンバーなど、複数のチームで利用されている。
「サロン・デュ・ショコラ 2022での経験を活かして、イベントに関わるデータを、システム横断的かつ統合的に、リアルタイムで可視化できるダッシュボードを開発しました。アクセス集中が見込まれる様々なイベントで有効に活用できるものです。アプリケーションパフォーマンス、インフラリソースの使用状況、データベースの負荷状況などのシステム視点に加え、アクセス数、ログイン数、購買数といったビジネス視点での情報もわかりやすく可視化します」(井上氏)
大規模なアクセスが予想された「サロン・デュ・ショコラ 2023」「同2024」の初日は、三越伊勢丹ホールディングス 情報システム部門の統括部長と、IMSの経営トップも「イベント用リアルタイム分析ダッシュボード」を注視しながら動向を見守った。
「私たちはダッシュボードで逐次状況を把握しつつ、事前に実施した統合的なパフォーマンステストで得たデータを参考にしながら、システム負荷とお客様体験への影響度を見極めていきました。その結果、適正な流量制限を行ったことで、お客様体験を損なうことなくシステムは安定したスループットを発揮し、2023年、2024年ともに前年を大きく上回る売上を達成することができました。最大級の催事で成果を出したことで、三越伊勢丹ホールディングスの情報システム部門とIMS経営層からNew Relicへの信頼を得られたことも大きな収穫です」(渡邉氏)
New Relicへの信頼がビジネス成長を支える
New Relic活用の進展とともにDevOpsへの取り組みも進んでいる。さらに、CCoEではNew Relicのソフトウェア脆弱性検出機能「New Relic IAST(Interactive Application Security Testing)」を検証中だ。アプリケーション開発に携わる宮川氏は次のように話す。
「DevOpsを実践しながら、将来はDevSecOpsへとステージを高めていきたいと考えています。開発者がセキュリティのような非機能要件に対する意識を高めていくためには、New Relicにおけるオブザーバビリティとセキュリティの統合は非常に有効です」
New RelicはIMS全社のOpsを「攻め」に変え、IMSが三越伊勢丹グループのビジネスに貢献していく姿勢をより明確にした。齋藤氏は次のように結んだ。
「New Relicの観測データが、ビジネスオーナーである三越伊勢丹とシステム開発・運用・保守を担うIMSの『共通言語』となり、お客様体験を向上させていくための『共通指標』として利用されるようになりました。New Relicへの信頼が、ビジネス基盤であるシステムに大きな安心をもたらしたことは間違いありません。今後システムのマイクロサービス化はさらに進み、さらには基幹システムのクラウド移行完了も控えています。オブザーバビリティが求められるシーンはさらに拡大していくでしょう。New Relic日本法人には、これからも三越伊勢丹グループのビジネス成長を支えるサポートを期待しています」