利用用途
TBSグループ VISION2030で掲げる「EDGE戦略」の一環として、放送・配信・劇場・店舗などTBSが持つ顧客接点をつなぐ共通IDサービス「TBS ID」の安定性・耐障害性向上にNew Relicを活用
New Relicの導入目的と成果
- 2030年までに放送以外の事業収入を60%に引き上げるービジネス変革を顧客体験の観測により支える
- TBSが提供する多様なサービスの入口となる共通IDサービス「TBS ID」の統合的なモニタリング
- 顧客基盤・認証基盤・分析基盤・インフラからなる「TBS IDシステム」の安定性・耐障害性向上
- TBS主導で「共通指標」となる観測データを提供し、複数の開発ベンダーが参画するプロジェクトを推進
- トラブルシューティングの迅速化、潜在的な不具合の発見と予防保守に寄与
- 開発フェーズにおける負荷テスト・結合テストに活用しソフトウェアの品質を向上
- クラウドリソースの最適化に寄与する観測データを提示
利用製品
- New Relic APM
- New Relic Infrastructure
- New Relic Synthetics
- New Relic Browser
- New Relic Logs
- New Relic Dashboard
- New Relic Alerts & AI
最高の“時”で、明日の世界をつくる。――TBSグループが掲げるブランドプロミスには、人の心や生活を豊かにするコンテンツを創造し、放送の枠を超えてコンテンツを拡張していく強い意思が込められている。2021年に策定された「TBSグループ VISION2030」では、メディアグループからコンテンツグループへの変革を加速させるための指針が、「EDGE(Expand Digital Global Experience)戦略」として示された。TBSホールディングス 総合マーケティングラボ TBSグループID事務局の藤居翔吾氏は次のように話す。
「『EDGE』はTBSグループが提供するコンテンツの価値を最大化するための拡張戦略であり、デジタル分野、海外市場、ライブ&ライフスタイルの3分野を最重点領域としてビジネス成長を目指しています。放送は現在のTBSグループの事業収入の60%を占める中核ビジネスです。VISION2030では、2030年までに放送以外の事業収入を60%まで高めることを掲げており、その原動力となるのが生活者のあらゆるシーン、広範な分野への『TBSコンテンツの拡張』です」
藤居氏が所属する総合マーケティングラボのミッションは、TBSグループ横断的なマーケティング活動の推進であり、会員基盤/データプラットフォームなどの整備を通じて事業会社・事業部門のマーケティング施策を支援することにある。
「EDGE戦略に沿った総合マーケティングラボの活動として、2023年10月に共通IDサービス『TBS ID』の提供を開始しました。お客様はTBSグループが提供する様々なサービスをひとつのIDで利用でき、サービスごとにIDやバスワードを管理する煩わしさが解消されます。また、TBSグループにとっては、統合的な会員情報に基づく高度なマーケティング活動が可能になります」(藤居氏)
TBSグループは、放送、配信、劇場、店舗などの多様な顧客接点を持つ。共通IDサービス「TBS ID」は、これらを横断的につないで、顧客に“多様なコンテンツ体験”を提供するためのプラットフォームとして役割を担っていく。
「お客様を正しく認証し、チケット購入、ショッピング、ファンコミュニティなどの“コンテンツ体験”を存分に楽しんでいただくには、TBS IDにサービスの遅延や停止があってはなりません。私たちは、TBS IDシステムの安定性・耐障害性を向上させるためにNew Relicを採用し、プロジェクトチーム全体で活用を進めています」(藤居氏)
TBSグロウディアが担う「TBS ID」の内製化
藤居氏は、総合マーケティングラボに編成された「TBSグループID事務局」に所属し、複数の開発ベンダーが参画するTBS IDシステム構築プロジェクト全体をリードしている。そして、本プロジェクトをIT/デジタル技術面からサポートしているのがTBSグロウディアである。同社 デジタル技術本部 開発部 バイススペシャリストの鎌田浩徳氏は次のように話す。
「TBS IDをTBSグループの共通基盤として運営していくために、内製化を重視したプロジェクト推進体制を整えました。TBSグロウディアは、要件定義を起点に、技術評価、インフラ設計と構築、監視・保守など、TBS IDシステム整備の主要領域を担うとともに、プロジェクト管理の面でもグループID事務局をサポートしています。システム内製化を推進しながら様々な知見を獲得し、VISION2030の実現に寄与することが私たちの大きな目標です」
TBSグロウディアは、TBSグループの事業会社としてコンテンツ、ショッピング、イベントラジオ、デジタル技術領域を担っている。鎌田氏の所属するデジタル技術本部は、放送系・制作系・配信系などのミッションクリティカルなシステムの開発・運用に強みを持つ。
「TBS IDシステムは、AWS Fargateをはじめとするモダンなテクノロジーを全面的に採用し、迅速なスケーリングにより高負荷時でも『安定性』を確保できる設計としました。また、『耐障害性』を高めるためにNew Relicを活用し、TBSグロウディアのCPUサービスルームによる24/365の監視・保守のもと、不具合発生時に速やかに対応できる体制を整えています。高い安定性と耐障害性は、TBS IDシステムの根幹をなす要件です」(鎌田氏)
New Relicによるオブザーバビリティが適用されたTBS IDシステムでは、不具合検知から問題解決までを迅速化するための工夫が組み込まれている。TBS グロウディアの監視チームであるCPUサービスルームに所属する井上和彦氏は次のように話す。
「New RelicからのアラートはSlackで通知されるため素早い初動が可能です。私たちは、New Relic Alerts & AIでインシデントの概要や重要度を把握し、一次対応の手順を定めたRunbookにリンクして対応フローを実行します。CPUサービスルームによる問題切り分けを経て、迅速に対応チームへエスカレーションする流れが整備されています」
プロジェクトにおける『共通指標』を提示
New Relicは業界を代表するオブザーバビリティプラットフォームであり、国内では39%のトップシェアを獲得している。デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にし、アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する。New Relicは、2022年9月にスタートしたTBS IDシステム構築プロジェクトにおいて常に重要な役割を果たしてきた。
「New Relicでは、コンテナアプリケーションとサーバーレスによるTBS IDシステム全体を可視化し、アクセスやリソースの状況をリアルタイムに把握できます。これにより、トラブルシューティングの迅速化、潜在的な不具合の発見と予防保守など広範に威力を発揮しています。さらに、New Relicの観測データは、複数の開発ベンダーが参加する本プロジェクトを進める上での『共通指標』として様々なシーンでメリットをもたらしました」と藤居氏は話す。
TBS IDシステムは、顧客基盤(顧客向けサービス)、認証基盤(認証・認可・ID管理)、データ基盤(データ統合・活用)を中心に構成され、複数の外部サービスとも連携する。
「共通IDサービスは『異なるベンダーが開発する複数の基盤がAPI連携』することで実現されます。私たちは、結合テストにおいてNew Relic APMでトランザクションをトレースし、APIやURIパラメーターの不具合検知と原因特定を行いました。この『共通指標』をプロジェクトの全員で共有し、責任範囲を明らかにしながら着実にソフトウェアの品質を高めていきました」(藤居氏)
「さらに、グループID事務局、ソフトウェア開発、インフラ、CPUルームの全員が参照するためのダッシュボードを整備し、フロントエンドからバックエンドに至るワークロードの正常性を俯瞰的に把握できるようにしました。NRQL(New Relic Query Language)を利用したカスタムダッシュボードの開発は想像したより容易で、運用段階でもNew Relicが示す『共通指標』を有効に活用できています」と鎌田氏は続けた。
EDGE戦略を加速させる「TBS ID」の進化
2023年10月、計画通りTBS IDによる共通IDサービスがスタートし、第1フェーズとしてTBSチケットのユーザーIDがこれに統合された。現在、新規サービスを含め7つのサービスを統合していく準備が進められている。
「TBS IDの提供を通じてお客様に“多様なコンテンツ体験”を提供するとともに、グループ横断的なマーケティング活動によりEDGE戦略を加速させることが私たちの目標です。TBS IDシステムは、事業会社・事業部門のビジネスに貢献するマーケティングプラットフォームとして、より付加価値の高い機能を拡充させていく考えです」と藤居氏は決意を示す。
New Relicの活用も、トラブルシューティングの迅速化に加え、潜在的な不具合の発見と予防保守、中長期の視点でのサービス品質向上に向けて高度化が進んでいる。
「週次の定例ミーティングでは、時間帯ごとのトラフィック傾向や、プロモーションメール配信直後の負荷状況などを確認しています。全体のトレンドが把握できてきましたので、アクセスの増減傾向に合わせてFargateのタスク数を変動させ、共通IDサービスの安定性を確保しながらクラウドコストの低減に取り組んでいます」(鎌田氏)
「CPUサービスルームの業務に、能動的にサービス品質の改善に取り組んでいくSRE(Site Reliability Engineering)の考え方を採り入れました。TBS IDシステムとNew Relicへのチャレンジは、守りから攻めへ、私たちの意識と行動を着実に変えつつあります」と井上氏は話す。
TBSグロウディアは、TBS IDシステムの開発・運用を通じてシステム内製化に向けた大きな一歩を踏み出した。それは、TBSグループが掲げる「EDGE戦略」の推進の原動力となるものだ。藤居氏は次のように結んだ。
「New Relicを選定した理由は、開発・運用それぞれの段階で有効なオブザーバビリティ機能と、デファクトスタンダードとして支持を伸ばしている事実、この2点が大きかったと思います。『EDGE戦略』の推進には、TBSグループ人材の技術力向上が欠かせません。New Relicの活用を通じて得られる知見は、まさにこのテーマに合致するものです。New Relic Japanには、より良いアドバイスと技術支援を通じて、これからも私たちの新しいビジネスチャレンジをサポートしてもらえることを期待しています」