良品計画|ECサイトの顧客サポートチームがオブザーバビリティを積極活用。エンジニアと効果的に連携し、顧客体験向上とシステム改善により、問い合わせを削減

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利用用途

ECサイト(ネットストア)にオブザーバビリティを導入。エンジニアリングチームによるシステム改善のスピードアップとともに、顧客サポート担当者がエンジニアを頼らずに自力でシステムトラブルの原因調査と回答が行える環境を整備し、顧客満足向上と問い合わせ削減を実現

New Relicの導入目的と成果

  • 顧客の問い合わせに迅速に対応するため、非エンジニアである顧客サポート(L1サポート)担当者でも、システムトラブルの原因調査を行えるソリューションを検討
  • SQLなどの技術知識がないユーザーでも簡単に扱えるNew Relicを採用し、L1サポートチームによる自力でのトラブル原因の調査・特定を実現
  • 無印良品の店舗で豊富な接客実務の経験を持つL1サポートチームの知見をシステム改善に有効に生かす
  • New Relicによってシステム上のボトルネックが可視化され、エンジニアリングチームによるシステム改善やパフォーマンス改善のスピードと的確性が向上
  • New Relicの活用開始から3ヶ月で、ネットストアのシステム改善が進み、システムに対する顧客からの問い合わせ件数が4分の3に減少
  • L1サポートチームとエンジニアリングチームが持つ専門知識とチームワークにより、ネットストアのシステム改善と顧客体験の向上に貢献

利用製品

  • New Relic APM
  • New Relic Infrastructure
  • New Relic Browser
  • New Relic Logs
  • New Relic Dashboard

 

良品計画は「無印良品」の企画開発から、商品調達、流通・販売までを一貫して手がける製造小売事業者であり、家具・生活雑貨業界を代表する企業だ。1989年の設立以来、堅調に事業を成長させ、同社の店舗はすでに世界32の国・地域へと広がり、売上高は2023年度(8月期)で前年度比17.2%増の5,814億円に達している。

 

そうした同社では、2021年9月を「第二創業」と位置付け「感じ良い暮らしと社会」の実現に貢献するという経営理念を打ち出した。その理念のもと、同社が力を注いでいる1つが、世界1,300万人が利用するECサイト(ネットストア)や年間のアクティブユーザーが世界1,369万人(*1)に上る無印良品会員アプリ「MUJI passport」といったコマースサービスのさらなる強化だ。

*1:2023年8月期の年間アクティブユーザー数

 

「当社がデジタル世界で目指しているのは『感じの良いオンラインの提供』です。この大目標に基づき、ネットストアなどにおいても、当社の実店舗と同レベルの良質で心地良いお客様体験を提供することを目指しています」(良品計画 ITサービス コマースサービス部 エンジニアリングサービス課長、髙林 貴仁氏)

 

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株式会社良品計画 ITサービス コマースサービス部 エンジニアリングサービス課長 髙林 貴仁氏

この目標のもと、同社ではコマースサービスのエンジニアリング体制の強化を推し進めている。また併せて、エンジニアリングチームと、コマースサービスの保守・運用・利用者サポート(L1サポート)を担当するチームとを一体化させ、両者が密接に連携しながら顧客体験の向上に取り組む体制も整えている。

 

「L1サポートチームの人員は無印良品の店舗で接客や店舗運営の経験を積んだ社員で構成されています。そうした現場感をもったチームとエンジニアリングチームがそれぞれの専門性や強みを融合させながら、ネットストアにおけるお客様体験を継続的に向上させていくことを目指しています」(髙林氏)

 

この体制を円滑に機能させるための仕組みとして、同社が活用しているのが「New Relic」だ。同社は2023年9月からNew Relicを使ったネットストアの観測を始動させ、エンジアリングチームでの使用を開始。また、2024年2月からL1サポートチームでの活用を始動させ、2024年3月に実施した無印良品会員に向けた特別セール「無印良品週間」に合わせる形でL1サポートチームでの本格的な使用がスタートした。また2024年9月にはNew RelicによるMUJI passportアプリの観測も行われる予定となっている。

エンジニアを介さず、問い合わせへのクイックで適切な対応を目指して

New Relicは業界を代表するオブザーバビリティプラットフォームであり、国内では39%のトップシェアを獲得している。デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にし、アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する。

 

顧客サポートを行うL1サポートチームがNew Relicの使用を始めた大きな目的の1つは、ネットストアに対する顧客からの問い合わせに速やかに対応することだ。

 

「L1サポートチームのもとには、当社のコールセンターを通じてネットストアやMUJI passportアプリのシステムトラブルに関するお客様からの問い合わせが寄せられます。従来、L1サポートチームはシステムトラブルの原因を調査することができず、システム系の問い合わせは全てエンジニアリングチームにエスカレートして、トラブル原因の調査や対処方法の提示をお願いしていました。ただ、エンジニアは本業で常に忙しく、原因調査にクイックに対応できないこともありました。そこで、L1サポートチームが自力でトラブル原因を突き止めて、お客様への対応をスピードアップさせたいと考えました。それがNew Relicの活用へとつながりました」(良品計画 ITサービス コマースサービス部 エンジニアリングサービス課、周 律旋氏)

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株式会社良品計画 ITサービス コマースサービス部 エンジニアリングサービス課 周 律旋氏

L1サポートチームには、自力でシステムトラブルの原因を突き止められるようになることで、サポートに対する顧客満足度も高められるとの期待もあった。

 

「エンジニアの言葉は専門的で、問い合わせに対する彼らの返答がお客様には理解しづらいことがよくあります。L1サポートチームは、そうしたエンジニアの言葉をしっかりと理解した上で、誰にでも理解できる言葉に転換しなければならず、それには相応の手間がかかっていました。そんな中で、私たちL1サポートチームのメンバーが自らシステムトラブルの原因を突き止められるようになれば、お客様にとって理解しやすい言葉でトラブルの原因や対処法が即座に説明できるようになると期待しました」(良品計画 ITサービス コマースサービス部 エンジニアリングサービス課、君島 真沙実氏)

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株式会社良品計画 ITサービス コマースサービス部 エンジニアリングサービス課 君島 真沙実氏

このように自力での調査を望むL1サポートチームに向けて、New Relicの活用を勧めたのは髙林氏だ。

 

「L1サポートチームのメンバーは、ITに精通するエンジニアではありません。ですので、SQLのような専門的な技術を使うことなくシステムトラブルの原因調査が容易に行えるようなソリューションが必要とされました。そのニーズに適合したのがNew Relicです。この製品ならば、ITに精通していない人員でも難なくトラブル原因が突き止められるにようになると判断し、L1サポートチームに採用を勧めました」(髙林氏)

New RelicをL1サポート業務とシステムの改善にも役立てる

New Relicを採用したL1サポートチームでは、主として「New Relic Logs」を使いネットストアにおけるシステム的なトラブルの調査を行っている。

 

「お客様からシステムトラブルの問い合わせを受けたときに、まずはNew Relicのログを参照し、そのお客様の操作ログを確認して何が起きたのかを確認し、次のステップで同様のエラーが他でも起きていないかをチェックしています。New Relicでは、お客様のIDや購入しようとしている商品の番号、操作の時間帯などを条件にしながら比較的シンプルにログの調査が行えます。また、検索結果や検索条件を保存することもできるので、同じような内容の問い合わせへの対応を効率化することもできます。New RelicのおかげでL1サポートチームの問い合わせへの対応力や対応スピードがアップし、お客様サポートでエンジニアリングチームにかける業務負担も小さくなっていると感じています」(周氏)

 

New Relicの活用を通じてシステムのトラブルに関する知識を広げたL1サポートチームは、店舗での実務経験を生かし、ネットストアのシステム改善にも貢献している。

 

「あるとき、お客様から『ネットストアのカートに、ある商品を入れたらシステムエラーが発出され、商品が購入できなかった』という問い合わせをいただきました。そのトラブルがなぜ起きたのかをログを使って調べたところ、当該の商品がそもそも購入できない状態にあったことが突き止められました。そこで、この事象が発生した際のエラーメッセージを単なる『システムエラー』から、『この商品はただいま購入できません。カートから削除してください』という正しいアクションを促すメッセージに変更してもらいました。こうした対応は、お客様の戸惑いを防ぐために実店舗ならば当たり前のように行うことです。実際、このメッセージ変更により、ネットストアではお客様の戸惑いを回避でき、同様の問い合わせがくる可能性を小さくできました」(周氏)

 

L1サポートチームではNew Relicのダッシュボード(New Relic Dashboard)も活用している。

 

「ダッシュボードを使うことで、システムの状態が一挙に把握でき、かつ、問題部分の深掘り(ドリルダウン)も簡単に行えるようになりました。また、New Relicの利用を通じてシステムに対するL1サポートチームの理解が深まり、エンジニアの言葉を解釈して現業部門の担当者やお客様に分かりやすく伝える能力も高まってきたといえます」(君島氏)

 

L1サポートチームでは、ネットストアにおける顧客体験の低下につながるトラブルを早期に、あるいは未然にとらえるべくNew Relicのアラート機能を活用する計画もある。

 

「L1サポートチームの仕事は、お客様によるネットストアやMUJI passportの快適な利用を促進し、見守ることです。とはいえ、そのミッションを遂行するためにダッシュボードを24時間365日見守り続けるのは実質的に困難です。そのため、L1サポートチームでは、顧客体験の良質化を図るという観点から、ネットストアのKPIを2024年9月ごろまでには設定して、しきい値を決め、それに基づくアラート発出の仕組みをNew Relic Alertにより構築する予定です。これにより、システムトラブルの発生を可能な限り早期に、あるいは未然に防げるようにしたいと考えています」(周氏)

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L1サポートチームがアプリなどの各状況をダッシュボードで見守る

エンジニアリングチームもNew Relicを活用 システムパフォーマンスの改善スピードを高める

一方、エンジニアリングチームもNew Relicの使用を通じて相応の効果を手にしている。

 

「エンジニアリングチームでは、ネットストアやMUJI passportのバックエンドシステムのリファクタリング(内部構造の変更)を進めていて、プログラムの入れ替えを少しずつ行っている最中です。この入れ替え時には都度パフォーマンスのチェックを行う必要がありますが、New Relicを使うことで、システムにおけるパフォーマンスの状況が一目で確認できるようになりました。言い換えれば、New Relicによってプログラムの品質の良否が明確に可視化されるようになったわけです。これはエンジニアリングチームによる適切なシステム設計、システム改善を促す良い効果です」(髙林氏)

 

エンジニアリングチームでは、システムにおけるKPIの達成度を一覧形式で確認できるダッシュボードをNew Relicで構築している。

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エンジニアチームはシステムのKPI達成度をダッシュボードで確認している

「このダッシュボードではパフォーマンステストの結果が非常に見やすく、全てのテストで繰り返し使えるのでとても重宝しています。加えてNew Relicでは、パフォーマンス劣化の原因をとらえるのも簡単で、ボトルネックがどこにあるかを特定するのも容易です。結果として、例えば、7分程度を要していたSQLの処理を40秒程度に短縮できた例もあります」(良品計画 ITサービス コマースサービス部 エンジニアリングサービス課、仲里 夢叶氏)

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株式会社良品計画 ITサービス コマースサービス部 エンジニアリングサービス課 仲里 夢叶氏

また、髙林氏によれば、New RelicによってL1サポートチームの調査能力が高められた意義(エンジアリングチームとっての意義)も大きいという。

 

「L1サポートチームが自分たちだけでシステムトラブルの原因調査を行えるようになったことで、エンジニアリングチームはより深いところの問題の分析や問題への対処法を考えられるようになりました。また、New Relicの活用を開始してまだ3ヶ月ですが、L1サポートチームはすでに、お客様のシステムトラブル全体の10%程度を自力で解決できるようになっています。今後、エンジニアリングチームとのナレッジの共有がさらに進めば、自力で解決できる問い合わせの割合はどんどん高まっていくはずです。一方のエンジニアリングチームも、お客様体験や、のちの調査のしやすさを意識したシステムづくりを心がけるようになると期待しています」(髙林氏)

システムの継続的な改善で問い合わせ件数を大幅に削減 顧客体験のさらなる向上に向けNew Relicをフル活用

New Relicの活用を通じたL1サポートチームとエンジニアリングチームによるネットストアの継続的なシステム改善は、L1サポートチームに対する問い合わせ件数の減少にもつながっている。

 

「New Relicの活用前と比べると、ネットストアに対する問い合わせ件数は明らかに減っていて、少なくとも従来の4分の3程度になっています。New Relicによる観測によって『システムの何が悪いのか』『何を成すべきか』が可視化されるようになったことは、適切なシステム改善へとつながり、結果として問い合わせ件数の減少につながっていると見ています」(髙林氏)

 

こう述べた上で、髙林氏はNew Relic活用の今後について展望する。

 

「New Relicを使いながら、まずは問題解決のスピードをさらに上げていきたいです。また、システムの状態をとらえながら、トラブルの発生を事前に検知して、お客様からの問い合わせがくる前に問題の解決が図れるようにもしたいと考えています。さらには、店舗で無印良品の売り場を創り、良質な顧客体験を実現してきたL1サポートチームの知見、感覚をシステム、サービスの改善に積極的に生かし、全てのお客様がストレスなくネットストアで買い物を楽しめるような理想的な環境を実現していきたいと思っています」