中外製薬|生成AIアプリChugai AI Assistantのユーザー体験を向上し「革新的な新薬の創出」を加速

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利用用途

「革新的な新薬の創出」を支えるデジタル基盤の安定稼働と、生成AIアプリ「Chugai AI Assistant」をはじめとするDXアプリケーションのユーザー体験を向上させるためにオブザーバビリティを活用

New Relicの導入目的と成果

  • CHUGAI DIGITAL VISION 2030で掲げた「デジタル基盤の強化」の一環としてNew Relicを採用
  • AWS、Azure、Google Cloudのマルチクラウド上で開発したアプリの監視をNew Relicに統合しオペレーションを効率化
  • 複数の大規模言語モデル(LLM)を利用する生成AIアプリ「Chugai AI Assistant」のプロセスを監視
  • 生成過程を含むAIアプリのレスポンスを観測し、SLI/SLOに基づくユーザー体験の向上に活用
  • ユーザーやチームのAIアプリ利用状況を把握し開発や投資の判断に活用

利用製品

  • New Relic APM
  • New Relic AI Monitoring
  • New Relic Infrastructure
  • New Relic Browser
  • New Relic Logs
  • New Relic Synthetics
  • New Relic Dashboard
  • New Relic Session Replay
  • New Relic Service Level Management

 

創造で、想像を超える。――中外製薬は、「がん領域、抗体医薬品に強みを持つ研究開発型の製薬企業」として、ロシュ社との戦略的アライアンスのもと成長戦略を加速させている。その原動力は、「AI創薬」に象徴されるイノベーションの持続的な創発と、これを支えるデジタル技術の活用である。傑出したデジタル変革・DXへの取り組みは、同社が「DXプラチナ企業2023-2025」に選定された事実からも窺える。デジタルトランスフォーメーションユニット デジタル戦略推進部 アジャイル開発推進グループを率いる川畑亮介氏は次のように話す。

「中外製薬では『CHUGAI DIGITAL VISION 2030』の一環として、創薬研究から臨床開発、製造、デリバリーに至るバリューチェーン全体を支える『デジタル基盤の強化』を進めています。全社レベルで生産性・効率性を高め、革新的な新薬創出に結びつけることが大きな目標です。デジタルトランスフォーメーションユニットは、先鋭的なデジタル技術のビジネス活用を推進する全社横断的な組織であり、私たちアジャイル開発推進グループは内製チームとして様々なDXアプリケーションの開発に取り組んでいます」

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デジタルトランスフォーメーションユニット デジタル戦略推進部 アジャイル開発推進グループ グループマネージャー 川畑亮介氏

最新のテクノロジーに精通したアジャイル開発推進グループのメンバーは、様々な業界で活躍してきたキャリア組が占める。新薬開発にかかる期間と研究開発費は年々上昇し、製品化に至る成功率が低下しつつある中、デジタル技術と内製チームにかかる期待は大きい。アジャイル開発推進グループでインフラ領域とSREを担当する山田真也氏は次のように話す。

「アジャイル開発推進グループでは、DXアプリケーションの内製開発の生産性とスピードを高めて、いち早くサービス化するための環境整備にも取り組んでいます。2024年7月には、マルチクラウドの全社基盤システムChugai Cloud Infrastructure(CCI)上に、標準化された技術スタックを統合したAcceleralyst(アクセラリスト)と呼ばれるプラットフォームを整備しました。その標準コンポーネントのひとつとしてNew Relicを採用しています」

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デジタルトランスフォーメーションユニット デジタル戦略推進部 アジャイル開発推進グループ 山田真也氏

New Relicは、中外製薬の成長戦略を支えるマルチクラウド環境「CCI」、デジタルプラットフォーム「Acceleralyst」、多様な「DX/AIアプリケーション」にオブザーバビリティ(可観測性)という新たな価値をもたらした。

RED SHIFTを全社レベルで支えるChugai AI Assistant

中外製薬が成長戦略『TOP I 2030(トップイノベーター2030)』で掲げる「RED SHIFT」は、革新的な新薬創出を目指す同社における最重要のテーマのひとつだ。REDは、Research(研究)とEarly Development(早期開発)の総称であり、ここに経営資源を集中させることで更なるR&D能力の強化を図る狙いがある。

「RED SHIFTは全社共通のチャレンジです。これを支えるデジタル技術、中でもAIを活用する業務支援には大きな期待が寄せられており、創薬研究、臨床開発、製造、デリバリーそれぞれの現場に適用できるDX/AIアプリの開発が進められています。2024年5月には、約7,600名の全従業員向けに業務支援のための生成AIアプリ『Chugai AI Assistant』をリリースしました」と川畑氏は話す。

Chugai AI Assistantは大規模言語モデル(LLM)が稼働するChatアプリである。中外製薬の全社員が、Amazon Bedrock Claude3をはじめ、Azure OpenAI GPT-4、GPT-4o、Google Gemini Pro、医療分野に特化したMedLMなどを自由に利用できる。

「AWS、Azure、Google Cloudから提供される複数のLLMを使い分けることができ、オプトアウト機能などによって機密性の高い業務にも安心して利用できることがChugai AI Assistantの大きな特徴です。リリース後から利用量は順調に増加しています。現在ではMonthly Active Usersでおよそ3,500ユーザーが利用しており、ピーク時の利用は1時間で1.8Mトークンに達しています」(川畑氏)

LLMは日々進化し続けているためひとつのモデルに絞り込むのは現実的ではない、というのがデジタルトランスフォーメーションユニットとしての判断だ。川畑氏は、「様々な現場で実際に試して、それぞれの業務に最適なLLMで成果を出すことが狙い」と話しつつ次のように続けた。

「私たちは、New Relicという単一のオブザーバビリティプラットフォームから、マルチクラウド監視とAIモニタリングを網羅できる機能性に着目しました。DXアプリケーションの開発に注力し、これを次々とリリースしてビジネスに貢献するという私たちのミッションに対して、最も合理的な選択になると考えたのです」

AIアプリにおけるオブザーバビリティの難しさ

New Relicは業界を代表するオブザーバビリティプラットフォームであり、国内では39%のトップシェアを獲得している。デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にし、アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する。2023年12月には「New Relic AI Monitoring」のプレビュー版を発表、その後2024年4月に一般提供を開始し、優れたアプリケーションパフォーマンスモニタリング(APM)機能をいち早くAIアプリケーションに適用可能にした。

アジャイル開発推進グループでは、New Relicを活用してChugai AI Assistantのマルチクラウド環境をモニタリングしている。主な目的は、「ユーザー体験の定量的な把握」「LLMとクラウドリソースの利用状況の観測」である。アジャイル開発推進グループのテックリード兼アーキテクトである岡田智寛氏は次のように話す。

「AIアプリでは、オーケストレーター、文章生成などのLLM、非構造化データを扱うベクトルストアなどの技術スタックが加わるため、パフォーマンスチューニングが難しいという問題があります。これまでの経験では、ユーザーがChugai AI Assistantにリクエストしてから生成されたデータやコンテンツを受け取るまでにおよそ6~8秒を要していました。一般的なWebアプリケーションと同じ感覚で使うと『遅い』と感じてしまうでしょう」

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デジタルトランスフォーメーションユニット デジタル戦略推進部 アジャイル開発推進グループ 岡田智寛氏

7,600ユーザーが様々な目的で業務に活用するChugai AI Assistantのメリットを最大化するためには、ユーザー体験を損なわないギリギリのターンアラウンドタイムを見極めていく必要がある。

「Webフロントでのユーザー体験を把握するためにNew Relic Syntheticsによる外形監視を利用していますが、さらに理解を深めるためにリアルユーザーモニタリングを採り入れたいと考えています。LLMからバックエンド、フロントエンドに至るユーザー体験の観測を実現し、Chugai AI Assistantがもたらすビジネス価値の向上に貢献していく考えです」と岡田氏は話す。

山田氏はSREの視点から、「New Relicのダッシュボードは、エンジニアの期待や思考がよく考慮されていて直感的でわかりやすい」と評価しつつ次のように話した。

「AWS、Azure、Google Cloudから収集される各種メトリクスをNew Relicに統合し、ダッシュボードでユーザーのリクエスト数を確認しながらLLMごとの機能開発の優先度を判断したり、レイテンシーの傾向を見ながらクラウドリソースの割り当てを調整するといった活動を行っています。New Relic AI Monitoringの活用を早期に本格化させてユーザー体験を定量的に把握し、より快適にChugai AI Assistantを利用できる環境を整えていきたいと考えています」

Chugai AI Assistantには「機密性の高い業務にも安心して利用できる」という特徴があるが、これを実現するためにAWS、Azure、Google Cloudとの接続に閉域網を利用している。閉域網を経由するアプリケーションプロセスにオブザーバビリティを適用するには高度な知見が必要だ。

「AWS PrivateLinkにおけるNew Relic APMの実装では、New Relic日本法人の技術支援に大変助けられました。オンラインで画面を共有しながら適切なアドバイスを受けられたので、その後は迷うことなく短時間で実装を進めることができました」(山田氏)

「アプリケーション開発の視点でもNew Relicが提供する機能は非常に有益です。CodeStreamを利用して開発生産性を高め、Change Trackingで機能改修にかかるリスクを低減することができます。アプリケーションパフォーマンスのような非機能要件を開発段階で確認できることは、開発者にとって大きなメリットになります」と岡田氏も続けた。

アジャイル開発推進グループ主導でSLI/SLOを制定

New Relicの導入から半年、アジャイル開発推進グループは、各種DX/AIアプリにおけるサービスレベル指標(SLI)/サービスレベル目標(SLO)の制定に動き出した。

岡田氏は、「クリティカルユーザージャーニー(CUJ)の視点でSLI/SLOを制定し、ユーザー体験を損なう異常にいち早く対処できるようにしていく考えです。Site Reliability Engineering(SRE)の考え方を実践し、サービス品質の目標達成に向けてNew Relicの機能を存分に活用してこそ、私たちが本当の意味でビジネス価値を提供できるものと考えています。SREの文化、SLI/SLOという指標・目標、New Relicによるオブザーバビリティ環境をしっかりと根づかせていくことが、私たち内製チームの実力を高めていくことにつながるはずです」と力を込める。

「ユーザー数とデータ量でコストが決まるNew Relicのライセンス体系には大きなメリットがあります。新しい機能がリリースされたときにいち早く試してみる、それが有効であると判断できれば本番環境に実装する、といったことが追加コストなしで可能です」と山田氏は話す。

川畑氏は、「New Relicには、中外製薬の『デジタル基盤の強化』の一翼を担ってもらいつつ、ビジネスオブザーバビリティ領域の進化にも期待している」と話し次のように結んだ。

「DXに寄与するアプリケーションの開発が本業である私たちにとって、マルチクラウド環境とAIアプリにオブザーバビリティを短時間で適用できたことは実に大きな成果です。今後、私たちにとってはSRE活動の実践と定着化が重要なテーマになっていくと考えています。New Relic日本法人の技術支援には大変感謝しています。引き続き私たちに寄り添ったサポートを期待しています」