企業のSAP運用管理における課題とは?最適な解決策を解説

SAPは多くの企業で基幹システムとして利用されており、経営状況を可視化、業務効率化に貢献しています。しかし、SAPを導入したものの、煩雑な運用に頭を悩ませている企業は少なくないでしょう。

ここでは、SAP運用管理の課題と、解決策として注目される「オブザーバビリティ」の概念のほか、SAP運用管理に最適なツールについて解説します。

 

SAP運用管理の課題

SAP運用管理の課題として、SAPを支えるインフラの運用に不安を感じている企業も少なくありません。そこには、SAPシステムの構成の変化が背景にあります。

従来のSAPは、さまざまな機能が1つのパッケージになっており、必要に応じてアドオンを追加したり、自社に合わせてカスタマイズしたりというのが一般的な構成でした。

しかし、SAP社が統合プラットフォーム「SAP Business Technology Platform」(以下、BTP)をリリースしてからは、SAPとの親和性が高いアプリケーションをユーザーが独自に開発できるようになりました。さらに、SAP以外のシステムと連携する構成も増えつつあります。

つまり、これまではSAP内で完結していたものが、他社のシステムやユーザーが構築したアプリケーションなどと、シームレスに連携する形で使われるようになりつつあるのです。

このようなSAPを取り巻く環境の変化により、「外部と連携するシステム全体をどのように監視し、運用管理するのか」ということが、SAP運用管理の新たな課題として浮上し始めました。

これからのSAP運用管理に必要な要素 である「オブザーバビリティ」とは?

SAPを取り巻く環境変化に伴い、SAP運用管理で注目を浴びているのが「オブザーバビリティ」という概念です。オブザーバビリティとは、システム上で何らかの異常が起こった際に、それを通知するだけでなく、どこで何が起こったのか、なぜ起こったのかを把握する能力を表す指標、あるいは仕組みを指します。

これからのSAP運用管理では、インフラ、ネットワーク、アプリケーションのすべてを監視する必要性があり、さらに、自社のサービスをユーザーがどのように使っているのかという顧客体験までを監視し、それらがビジネスにどのように影響しているかという点までモニタリングすることが求められるでしょう。

もちろん、それぞれを監視するツールは個別に存在しますが、複数のツールで監視するとなると、使い勝手が大きく劣ってしまいます。

そこで、SAP運用管理で必要になるのが、SAPだけでなくその周辺で稼働するすべてのシステムの動きをデータとして収集し、観測するオブザーバビリティなのです。

オブザーバビリティの活用で得られるSAP運用管理のメリット

SAP運用管理にオブザーバビリティを活用することで、主に3つのメリットが得られます。具体的にどのようなメリットがあるのか、詳しくご説明します。

迅速に障害の原因を特定

オブザーバビリティでは、システム全体を常に観測しているため、異常発生時にどこに問題があるのか、関連箇所も含めて即座に特定可能です。従来のログ分析による障害対応ではなく、「どこで何が起こっているのか」というところから復旧作業を開始できるため、障害の発見から復旧までの時間を大きく短縮し、障害発生によるデメリットを小さく抑えることに貢献します。

また、障害の原因を特定することで、リソースのスケールアップなどの対策を講じることができ、同じ障害の再発防止効果も期待できるでしょう。

品質の改善に貢献

オブザーバビリティを活用することで、「ユーザーからのクレームを受けて初めて障害に気づく」という状況を避けられ、品質の改善につながります。稼働中のシステム上では、多くのトランザクションやクエリが流れています。それらがシステムのパフォーマンスにどのような影響を与えているのかを明らかにすることができるのです。

また、ユーザーが頻繁に行う重要な操作をユーザーと同じ環境でチェックすることで、サービスが安定的に提供できているかどうかについても確認できるでしょう。

コストの最適化

インフラコストの最適化が図れることも、オブザーバビリティを活用する大きなメリットのひとつです。インフラに加えてアプリケーションの使用状況も併せて観測することで、インフラのスペックが必要充分か、オーバースペックになっていないかがわかります。

システムを使用状況に合わせて、インフラのスケールアップ・スケールダウンの調整をすることが可能です。

オブザーバビリティを活用したSAP運用管理の活用例

SAP運用管理にオブザーバビリティを活用することで、実際にどのようなことが可能になるのでしょうか。具体的な例をいくつかご紹介しましょう。

スキルを持ったエンジニアがいなくても障害の切り分けが可能に

SAP運用管理にオブザーバビリティを活用すると、スキルを持ったエンジニアがいなくても、問題の原因を早期に特定できます。

「SAPに何らかの不具合が起こり、提供しているサービスが使用できない」あるいは「エラーや遅延が発生した」といった場合、どこにどのような不具合があり、それがどのようにサービスに影響しているのかを探り出すのは、簡単ではありません。従来の監視では、監視すべき項目を選び、アラートを出すしきい値を設定して、アラートが出たらエンジニアが対応するというものでした。この方法では、異常が起きたことを知ることはできても、どこに問題があるかまではわかりません。そのため、専門的なノウハウとスキルを持ったエンジニアがいないと根本的な問題を解決できないという状況に陥りがちです。

しかし、オブザーバビリティを活用すれば、インフラリソースの使用状況からアプリケーションの実行状況まで関連するすべての情報を得ることができるため、特別なノウハウやスキルがなくても問題の原因を早期に特定し復旧へと導くことができます。

サービスが継続的に提供できているかを把握し、ユーザーエクスペリエンスの向上へ

SAPに限りませんが、運用管理で大切なことは、サービスが継続的に提供できているかどうかを把握することです。オブザーバビリティを導入すれば、これも可能になります。

現在のシステムの監視においては、異常があればすぐに対応できる体制を整えることと併せて、ユーザーがどのような体験をしているのかを把握することが必要不可欠です。ビジネスアプリケーションを作成できる設計システム「SAP Fiori」を使っているケースでは、ブラウザ側で何らかの障害が起こる場合もありえるため、ユーザー体験までチェックすることが求められるでしょう。

オブザーバビリティでは、ユーザーが行う主な操作を実際に行い、レスポンスや描画に時間がかかっていないかどうかも可視化が可能。これにより、システム内の異常の有無に加えて、サービスの安定性を常に把握できるのです。

「ユーザーからクレームが来ているがどこにもエラーが出ていない」といった状況を極力排除することができ、ユーザーエクスペリエンスの向上にもつながります。

運用管理のブラックボックス化を解消し、コストダウンが可能に

SAP運用管理にオブザーバビリティを活用することで、運用管理のブラックボックス化を解消し、費用対効果を確認できます。それにより、不要な出費を抑えることも可能です。

SAPソリューションは多くの企業で活用されていますが、専門性を要する運用管理はアウトソーシングするケースも多く、結果として運用管理のブラックボックス化を招きやすいのが現状です。運用管理がブラックボックス化してしまうと、現在のインフラコストが果たして適正なのかどうかが見えにくくなってしまいます。

また、システムのスペックを落としてコストダウンを図る際にも、どこでどれほどのスケールダウンが可能なのかがわからず、躊躇してしまうケースも少なくありません。

そこで、オブザーバビリティを活用すれば、システム全体の状態を数値として把握できることで、インフラスペックのアップ・ダウンに対する明確な根拠となり、過剰なスペックにコストを支払うことを避ける効果が得られるのです。

オブザーバビリティを実現するNew Relic

実際にオブザーバビリティを活用しようとする際、大切なのはツール選びです。SAP運用管理におすすめしたいのが、オブザーバビリティの考え方をベースに設計されたモニタリングプラットフォーム、New Relicです。

ここでは、SAP運用管理に役立つNew Relicの特徴をご紹介しましょう。

すべての情報を関連付けて観測する

New Relicは、稼働しているSAPで何が起こっているのか、すべてのデータを関連付け、リアルタイムで収集が可能です。

その対象はインフラからアプリケーション、さらにビジネスの領域までカバーし、非SAPのシステムや、ユーザーがBTP上で構築したアプリケーションも常時観測して、取得したデータを1ヵ所に統合します。

例えば、「プロセスごとのメモリ使用量」を時系列で表示させることで、使用可能なメモリの容量が徐々に減少していくメモリリークの原因を、瞬時に特定することも難しくありません。

SAPシステムの負荷状況を可視化できる

New Relicでは、システム全体の負荷状況を1つの画面にまとめて可視化することが可能です。ワークプロセス、メモリ使用状況、ユーザーログイン数、応答時間などを同時に表示させ、エラー調査を行うことで、復旧・改善活動のスピードは目に見えて向上します。

例えば、深刻なメモリリークが起こったとき、ユーザーアクセスが大きかったのか、あるいは通常レベルだったのか、応答レベルはどうかといった、さまざまな要素を分析することが可能です。

それにより、関連箇所も含めて原因を素早く特定し、障害復旧までの時間を大きく短縮できます。

SAPプログラムのボトルネックを容易に特定する

「SAPの特定のプログラムやバッチ処理が遅い」という現象は、意外と多くあるものです。反面、その原因を見つけるには高度なスキルが必要で、時間がかかります。

New Relicであれば、プログラムの流れをシンプルなフローで表示し、どこにどれだけの時間がかかっているのかを可視化することが可能です。これを手掛かりに分析することで、パフォーマンス低下の原因調査や、さらなるパフォーマンスアップのための改善施策の立案を、迅速に行えるようになるでしょう。

データベースのパフォーマンスデータを可視化できる

New Relicは、データベースのパフォーマンスデータを可視化できます。メモリ・カラム型の超高速データベースシステム「SAP HANA」では、データベースの状況を可視化するため、管理ツールである「HANA Cockpit」や「HANA Studio」を使う必要がありました。

しかし、New Relicであれば、ほかのアプリケーションもインフラと併せて稼働状況を見ることが可能です。複数の画面を行き来することなく、1つのツールの中で作業を完結できるのです。

普段から使い慣れ、見慣れた監視画面の中で、メモリやストレージの不足などに気づくことができれば、より素早い対応をとれるようになるでしょう。

コスト最適化のダッシュボードを活用できる

New Relicの使い方のひとつとして、コスト最適化のダッシュボードを活用することが挙げられます。画面の上半分にアプリケーションのパフォーマンス情報を、下半分にはインフラの情報を並べ、一覧できるようにしておけば、アプリケーションのピーク稼働時にどれくらいインフラを使用しているかが一目瞭然です。

「現状では、アクセスピーク時でもインフラ負荷は軽い」と判断できれば、数値をもとにインフラのスペックを下げ、コストの最適化を図ることができます。

SAPを中核とし、周辺システムを包括的に可視化するNew Relic

New RelicはSAPだけではなく、システムを構成するすべてのインフラからアプリケーション、ビジネスプロセスまでのデータをすべて1ヵ所に集め、分析できます。スピーディーな原因特定に貢献するため、復旧までの時間を短縮することが可能です。もちろん、「システムはちゃんと動いているけれども、パフォーマンスが不十分」という場合の、改善策の検討にも役立ちます。

さらに、インフラリソースだけでなく、アプリケーションの利用状況も併せて観測可能なため、スケールダウンやチューニングによるコストダウンを図りやすいというメリットもあります。

システム内の情報をリアルタイムで収集するNew Relicは、SAP運用管理を担う監視ツールの枠内にとどまらず、使い方次第でさらに可能性を広げていくモニタリングプラットフォームといえるでしょう。