気象情報サービスを提供するウェザーニューズは、利用者が急増している個人向け天気情報アプリ「ウェザーニュース」のアクセス速度を高速化させるため、New Relicを導入した。従来、同社では包括的なパフォーマンス監視は行っていなかったが、トライアルで使ったNew Relicでスマホアプリの改善点を見つけられたことから、正式採用を決定。スマホアプリとバックエンド側のパフォーマンスを一元的に測定可能することで、ユーザー体験(UX)向上と、移行を進めるクラウド基盤のリソース最適化を図ろうとしている。

アプリのUXパフォーマンス改善に着手

株式会社ウェザーニューズは、1986年に設立された世界最大級の気象情報サービス企業だ。同社は、1970年福島県いわき市小名浜港を襲った爆弾低気圧により貨物船が沈没、15名の命が失われた事故をきっかけに、「船乗りの命を守りたい」という想いから海洋気象の専門会社としてスタートした。以来、本当に情報が必要な人たちに対して、具体的な減災、防災対策につながる有用な気象情報を届けることに挑戦し続けている。提供する気象サービスは、海から空、陸へと広がり、「いざという時、人の役に立ちたい」という考え方に基づき、現在、世界50カ国の顧客に、24時間365日のリスクコミュニケーションを行っている。

ウェザーニューズは「Weather as a Service」を標榜し、法人向け(BtoB)と個人向け(BtoS:S=サポーター)の2つの事業を展開する。自社衛星2基、世界の気象観測地点3万8000カ所に加えて、船舶や航空機、ユーザー(サポーター)からのウェザーレポートをベースに、世界最大クラスの気象データベース化、世界ナンバーワンの予報精度の実現を目指す。個人向けの天気情報は、スマホアプリ「ウェザーニュース」を中心に提供しており、月次アクティブユーザー数は2016年と比べて現在約2倍に急増している。「梅雨の最後から秋にかけて、集中豪雨や台風の多い出水期にアクセス数は増えます。季節変動も顕著ですが、2020年は今年のさらに2倍のユーザー数の獲得が目標です。そこで最も重要になるのが、アプリの使いやすさでしょう。スピーディーに利用できないと、ユーザー体験(UX)が悪くなり、アクセス数の増加も見込めません」と、同社 モバイルインターネット事業部 柴崎弘佳氏は力を込める。

グローバルセンター モバイルインターネット事業部
柴崎弘佳氏

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一方、バックエンド側でも、出水期のアクセス増加に対応してAPIのパフォーマンス維持が求められる。しかし、これまでは、アプリ側もバックエンド側も包括的なパフォーマンスの性能監視は行っていなかった。今回、バックエンド側のシステム基盤をクラウドへ移行する計画を開始させるのと併せて、アプリの動作とAPIのパフォーマンス改善に取り組むことになったのである。

スマホアプリとAPIのパフォーマンスを測定可能に

スマホアプリとバックエンドのパフォーマンスを見るために、ウェザーニューズでは、アプリケーションのパフォーマンスを監視する「New Relic APM」、インフラストラクチャーを監視する「New Relic Infrastructure」、スマホアプリの動作を監視する「New Relic Mobile」という3製品をトライアルで使うことにした。「New Relicをまずスマホアプリで試しましたが、インタラクションという機能を使って、アプリが動く際にそれぞれどの位の時間がかかっているかを測定しました。その結果、私たちが認識していなかった部分で時間がかかっていることが分かり、テスト運用中にもかかわらずプログラムの修正にまでつながりました」と、同社 モバイルインターネット事業部 邉見萌乃氏は明かす。

グローバルセンター モバイルインターネット事業部
邉見萌乃氏

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ユーザーはスマホアプリ起動時に、各地域のピンポイント天気を最初に見る。アプリの起動スピードを向上させるには、このピンポイント天気の表示処理を速くすることが肝心だ。今回、ウェザーニューズのエンジニアが想定していなかった部分で、改善に向けた気づきを得られたという。具体的には、プログラムの記述が冗長になっていたこと。New Relicで性能監視を始めたことで、それが原因で描画が遅くなっていたことが分かった。その後、プログラムの記述を変更し、スマートフォンアプリケーションの起動時間を2倍ほど高速化することに成功。こうした結果を踏まえ、同社はNew Relicの正式導入を決定する。

従来、スマホアプリの新バージョンリリース前には100人ほどのテストユーザーに使ってもらうとともに、社内でもテストを行って、アプリの速さを体感で判断していた。それが今回、New RelicでAPIも含めて、網羅的かつリアルタイムで測定できるのは非常に大きな意味がある。同社は、今後の本格的な活用に大きな期待を寄せている。「今、我々は『スピードは正義』を合い言葉に開発を進めています。スピードに徹底的にこだわることが重要だと考え、エンジニアの企業文化にまで昇華させるつもりです。New Relic導入をきっかけに、高速化によってユーザー体験(UX)を向上させ、アプリとAPIの相乗効果でパフォーマンスの改善に取り組んでいきます」と、同社 モバイルインターネット事業部 開発チーム リーダー 出羽秀章氏は強調する。

モバイルインターネット事業部 開発チーム リーダー
出羽秀章氏

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オフィス内に New Relic Oneダッシュボードを表示して全員でモニタリング

ウェザーニューズでは、オフィス内の大型ディスプレイにNew Relicが提供する1つのダッシュボードで、パフォーマンスの状況をリアルタイムに表示している。スマホアプリはiOS、Android、それぞれにしか起こらない障害や問題もあるため、New Relic Mobileを使って描画時間などを表示。また、APIのレスポンスもNew Relic APMでモニタリングしている。「APIの監視は、モバイルアプリケーションのパフォーマンスを見るためにも必要です。使われているリソースを見ていて、APIがどういう動きをしているか。API自体はきちんと動いていても、アプリ側から見ると反応が悪くなっている場合もありますから、スマホアプリとAPIを一元的に見ています」と、同社 モバイルインターネット事業部 長崎芳紀氏は説明する。

グローバルセンター モバイルインターネット事業部
長崎芳紀氏

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ウェザーニュース社のオフィスに表示されているNew Relic Oneダッシュボード

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このように、問題が起きた時に原因を調査し始めるという従来のやり方から、ダッシュボードで情報を一元的に見ることで、全体の状況がリアルタイムで可視化されるようになった。その中で、2019年10月にリリースしたスマホアプリの新バージョンでは、以前のバージョンと比べて描画速度が向上し、スピードが改善したことも数値ではっきりと示せるという。ただ、オフィスの大型ディスプレイに表示されているダッシュボードは、ずっと注視していないと数値の変化に気づきづらい。そのため同社では、New Relicのアラート機能を使って、異常を検知したらアラートを飛ばしたり、表示の色を変えるなどして、エンジニアがダッシュボードの変化にすぐ気づけるようにチューニングする予定もある。

加えて、ユーザーが利用しているネットワークもWi-Fi、4Gなどタイプごとに分かり、スマホのOSバージョンごとの起動数もリアルタイムに把握している。今後、こうした機能を使って、Wi-Fiユーザーへだけに動画を配信したり、利用されていないOSのサポート時期の見直しなど、ユーザーの利用状況に合わせたきめ細かなサービス展開を図っていく考えだ。さらに同社は、現在システム基盤をクラウド環境へ移行中だが、最適なリソースで十分なパフォーマンスが発揮できるよう、New RelicでAPIのパフォーマンスを継続的にチェックし、利用コストを絞り込む計画もある。こうした一連の取り組みを通じて、ウェザーニューズではスマホアプリを利用するユーザーの体験価値を向上させ、一層の利用拡大を狙う構えだ。

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