RUM(リアルユーザーモニタリング)とは?仕組みや活用事例を紹介
Webサービスを提供している企業では、知らぬ間にWebページやモバイルアプリのユーザー体験が悪くなってしまい、ブランド価値の低下や機会損失を招くケースも少なくありません。こうしたリスクを防ぐために活用されるのがRUMです。
また、ユーザー体験の低下がビジネスに直接的な影響がないようにみえる業務システムのようなツールも、ユーザー体験が悪いと、ユーザーにストレスがかかるだけではなく、作業効率が上がらなかったり、ミスが頻発したりします。
デジタル技術の進化により、より高いレベルのサービスと使いやすさが求められるようになった現在では、ビジネスの成長にはユーザー体験の向上がますます重要になっているといえるでしょう。
ここでは、RUMの概略とそのメリット、外形監視との違い、有効な活用方法についてご説明します。
RUMとは、ユーザーが実際に体験している事象をモニタリングすること
RUM(Real User Monitoring)とは、「リアルユーザーモニタリング」と呼ばれ、ユーザーが実際に体験している事象をモニタリングすること、あるいはそのために使われる技術を指します。
Webサイトやモバイルアプリが、ユーザーにどのように見えているか、ユーザーの操作に遅延なくレスポンスできているか、といったユーザー体験を測定する手法で、ユーザー体験を改善するために重要な役割を果たします。
Webサイトやモバイルアプリがビジネスに直結するECサイトなどのビジネスでは、RUMに多くのリソースを割き、サービスのブラッシュアップをフルスピードで行っているケースが多いでしょう。なぜなら、これらの企業にとっては、ユーザー体験こそがビジネスの命綱であり、そこにわずかでも欠陥があれば、あっという間に競合他社に抜き去られてしまうからです。
一方で、Webサービスが主戦場ではないBtoBのような企業では、RUMにそこまで注力する企業は多くないかもしれません。しかし、多くの業界でWebサービスが展開されている現代では、普段から使っているWebサイトやモバイルアプリでの体験が個人のユーザー体験の基準となり、基準から大きく損なわれるWebサービスに対してはネガティブな反応になることも少なくないでしょう。
つまり、RUMはあらゆる企業にとって重要な要素といえるのです。ユーザー体験を計測することによって、Webサービスの価値を測る、評価方法にもなりえます。
RUMの仕組み
RUMは、Webサイト内のページやモバイルアプリの内部にエージェントを組み込み、デバイスやブラウザの情報とユーザーの行動を収集する仕組みです。そうすることで、ユーザーがWebサイトやモバイルアプリを利用した際の体験を、リアルタイムで捉えることが可能になります。
例えば、Webサイトであれば「どのようなルートをたどってサイト内を巡回し、どのページでどのリンクをクリックし、どれほどの時間滞在して、どのような機能を利用したか、ページの表示にどれくらいかかったか」、モバイルアプリであれば「素早く起動できていたか、期待する機能は動作していたか、起動してからどの機能を使い、どのような通信リクエストを発したか、遅延やエラー、モバイルアプリのクラッシュはなかったか」といった情報を収集します。
これらの情報をもとに、用意した性能や機能が十分に発揮できているのかどうか、ユーザーが満足するサービスを提供できているかどうかを分析するのです。
RUMが取得できるデータの種類は製品によって異なりますが、RUMが取得できる主なデータの例は以下のとおりです。
■RUMが取得できる主なデータ(Webアプリケーションの場合)

RUMはなぜ必要なのか?
自社のサーバーには問題がなくても、ユーザー体験が低下するといったケースは少なくありません。そのため、サービスを提供する企業側が自社のサービスの状態をユーザー目線に立って正しく把握することが必要です。サーバー側のプログラムが正常であっても、フロントエンド側のプログラムに問題があると、ユーザー体験に不具合が生じます。特定の端末機器やOS、ブラウザなど、一定のユーザー環境でのみ問題が起こるといったパターンも多くあります。
このようなユーザー体験の不具合に気づかないと、ブランド価値の低下や機会損失につながりかねません。また、ビジネスの成長にも影響するでしょう。RUMはこうしたリスクを防ぐために注目を集めています。
RUMと外形監視(合成モニタリング)との違い
ブラウザベースのアプリにおいて、ユーザー視点でのモニタリングというと「外形監視(合成モニタリング)とは何が違うのか」と疑問に思う人もいるかもしれません。外形監視は、ユーザーの操作を模擬し機械的に一定の環境から監視する手法であるのに対し、RUMはユーザーの手元の環境から監視するといった違いがあります。
外形監視は、「Synthetic Monitoring」とも呼ばれ、Webサイト上のユーザーのトラフィックを積極的にシミュレートすることで、データを収集することが一般的です。エンドユーザーの操作を模した操作をスクリプトとして組んでおき、それを実行することでWebサイトやモバイルアプリの反応をモニタリングするというものです。
一貫性のある環境で行われ、純粋にWebサイトやモバイルアプリの基本的性能をチェックできます。そのため、外形監視が収集するデータは、ラボデータであるといえます。ネットワーク環境やOS、ブラウザ、操作手順など実際のユーザー環境の違いを考慮していないため、正確にユーザー体験そのものを反映しているとはいえません。
一方のRUMは、デバイスやOSの種類などのほか、実際に行われたユーザーのリクエストとそれに対するレスポンスといった本当のトラフィックを使用します。Webサイトやモバイルアプリの基本的性能は同一でも、一人ひとりすべて異なるユーザー体験をトレースできるため、フィールドデータを収集するのに適しています。
外形監視は定量的な観測のため条件を揃えたラボデータを収集し、RUMは実体験に基づく膨大なフィールドデータを収集するといった違いがありますが、どちらかだけを行えばよいわけではなく、両方を組み合わせることによって、ユーザーの置かれた状況をより深く理解することが可能です。
RUMのメリット
RUMの必要性を理解した上で、具体的なメリットについて見ていきましょう。ここでは、RUMの主なメリットをご紹介します。
ユーザー体験をより正確に理解できる
RUMの最大のメリットは、実際のユーザー体験をより正確に理解できることです。
RUMはユーザー定義されスクリプト化されたSyntheticsを超えて「Webサービスにアクセスできているか」「レスポンスのスピードは十分なレベルにあるか」「機能はストレスなく利用できているか」といった本当の体験を、実際のユーザー環境の数値として計測できます。そのため、計測結果の信頼性は高く、ユーザー体験を正しく理解することが可能です。
ラボデータとフィールドデータの比較ができる
ラボデータとフィールドデータの比較ができることも、RUMのメリットのひとつです。
Webサイトやモバイルアプリを公開する前のステージング環境で得られたデータは、あくまでもラボデータです。ステージング環境で機能が想定通りに動いたとしても、多種多様なユーザー環境のもとで、同じ性能を発揮できるかどうかはわかりません。
RUMで個々のユーザーからフィールドデータを収集して、ラボデータと比較することで、よりリアルな評価ができるようになります。また、ラボデータとの乖離が大きく、ユーザビリティへの影響が大きい箇所から改善するといった、対策プランも立てやすくなるでしょう。
New RelicのRUMの特長
New Relicは、システムやアプリケーション全体を観測するオブザーバビリティ・プラットフォームです。オブザーバビリティとは、システム上で何らかの異常が起こった際に通知するだけではなく、異常が起こったのがブラウザで実行されるJavaScriptなのか、サーバーサイドでリクエストを受け付ける側なのか、あるいはさらにその奥で細かい情報を処理しているマイクロサービスなのか、どこで何が起こったのか、なぜ起こったのかを把握する能力を表す指標、あるいは仕組みを指します。
New Relicでは、オブザーバビリティの一部としてRUMの機能を提供しています。その特長をご紹介しましょう。
通知だけではなく、その原因特定・修正が迅速にできる
New Relicは、エラーや不具合が生じた場合に、アラートを飛ばすだけではなく、原因を迅速に特定・修正することが可能です。
New Relicの機能には、BrowserやMobileといったRUMの機能があります。Webサイトであってもモバイルアプリであっても、ユーザーが閲覧・操作するフロントエンドから、サーバーやデータベースなどのバックエンドまで、まさにエンドツーエンドのオブザーバビリティを実現しています。そのため、パフォーマンスの低下が起こったときその原因がどこにあるのか、即座に特定できるのです。
さらに、AIと機械学習を活用しているため、アラートを飛ばすだけではなく、トラブルシューティングを自動化できます。
なお、数多くのマイクロサービスやコンテナが、動的に関連しながらWebサービスを提供しているクラウド環境であっても、New Relicはあらゆる要素を関連づけて観測が可能です。
変化が起こった経緯や原因を、視覚的にすぐに掘り下げられる
「エラーが原因で描画ができない」「計算結果が出ない」「画面が遷移しない」「コンテンツが出ない」といったユーザー体験の不具合が起こった際、New Relicなら、その経緯や原因を視覚的にわかりやすく確認することができます。
例えば、ユーザー体験を測る際には、ページの読み込み速度とインタラクティブ性、視覚的安定性の3つの値をモニタリングすることが一般的ですが、その数値が低下していた場合、何が原因で変化したのかをダッシュボードで容易に確認できます。さらに、不具合が起こった際にはワンクリックで深掘りして根本原因の追究も可能です。
また、不具合が起こった際は、「Session Replay」の機能によって、ユーザーの状況を動画のように再現することもできます。New Relicはユーザーの一連の履歴を数値情報として収集し記録しており、その情報をもとに画面を描画できるのです。この機能はエンジニアだけではなく、ビジネスサイドなどの上層部に対しても「何が原因で、ユーザー体験がどれほど低下しているか」を説明しやすくなり、より迅速な対策を打ちやすくなるでしょう。
包括的な統合モニタリング環境を活用できる
包括的な統合モニタリング環境を活用できることも、New Relicの大きな特長のひとつです。New Relicには、BrowserやMobileだけではなく、オブザーバビリティ実現のために数多くの機能が備わっており、それぞれ密接に連携し合い、最善の結果を最速で得られるよう設計されています。
例えば、New Relicの機能のひとつである外形監視ツール「Synthetics」は、世界各国のNew Relicの拠点のほか、イントラネット、閉域網など一般的にアクセスできない拠点からも、個々のユーザーの操作を模倣するボットによって外形監視が可能です。自社以外の場所からモニタリングするため、一般的な外形監視よりもリアルユーザーに近く、BrowserやMobileとともにRUMの一部として扱われています。
また、サーバーサイドアプリケーションを観測するAPMのほか、AWSやAzureなどの計測情報、Infrastructure、Logsによる内部監視情報を統合することで、より大きな成果を生み出します。
New Relic活用事例
New Relicは、あらゆるWebサイトとモバイルアプリに活用可能です。ここでは、モバイルアプリのみならず車両に搭載されたIoT機器まで観測性を広げた例として、カーシェアリングサービス「TOYOTA SHARE」の事例をご紹介します。
TOYOTA SHAREは、ユーザーのスマートフォンをクルマのキーとすることで、物理キーの受け渡し不要で、いつでもカーシェアの利用が可能なサービスです。モバイルアプリからドアの開錠・施錠とエンジンの始動を制御するための車載デバイス「スマートキーボックス(SKB)」と、モバイルアプリの要求からユーザー認証を経て暗号キーを発給するWebアプリケーション「モビリティサービス・プラットフォーム」を、スマートフォン用モバイルアプリ「TOYOTA SHAREアプリ」で連携させることで実現しています。
このモバイルアプリにRUM機能を持つNew Relicエージェントを組み込むことで、SKBとモバイルアプリとのあいだの通信・操作履歴を取得するとともに、システム全体の状態をリアルタイムで可視化できるようになりました。また、New Relicが持つ強力なオブザーバビリティによって、トラブル時の早期対応を可能にし、ディーラーからの問い合わせ対応時間を月間約60%削減、ユーザーからの問い合わせ対応時間も約25%削減という成果が得られています。
これからRUMを実施するなら、New Relicがおすすめ
Webサイトやモバイルアプリの速度やパフォーマンスが、これまで以上に重要度を増す現代において、ユーザー体験のトラブルを防ぎ、ユーザー体験を向上させることを目指す企業も多いでしょう。ユーザー体験をリアルに追跡・評価するRUMは、ユーザー体験を改善するために必要不可欠といえます。そして何よりも、ユーザー体験に影響する不具合を見つけたら、トラブルに発展する前に迅速に対処し、今後の施策に結びつけることが重要です。
New Relicなら、数多くの機能により強力なオブザーバビリティを備えているため、フロントエンドからバックエンドまで、あらゆるデータを取得でき、障害があればその原因を容易に特定・修正できます。
ユーザー体験の向上だけではなく、業務の効率化とともにビジネスの拡大を目指すなら、New Relicの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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