創業以来、オンプレミス向けの帳票・BIソフトウェア製品を提供してきたウイングアーク1st株式会社は、近年SaaS型事業への変革を進めている。SaaSビジネスを安定的に運用するには、ソフトウェア事業では発生し得ないクラウドシステム側の運用パフォーマンス管理指標の精緻な管理が求められる。同社はNew Relicを導入して、SaaS事業のパフォーマンス管理体制を整えた。パフォーマンスのボトルネックを探し出し、次の打ち手につなげる上でも、New Relicのソリューションは大きな役割を担っている。

SaaS型事業への変革で性能監視の重要性が高まる

ウイングアーク1stは帳票やBIなどの分野で多様なソフトウェア製品を開発、提供している。オンプレミス環境向けの製品を長く手がけてきた同社は、2012年から本格的なSaaS型事業展開を始めた。現在、6つのクラウドサービスを提供しており、今後もメニューを増やしていく予定にある。帳票分野では、オンプレミス向けの「SVF」、クラウドサービスの「SVF Cloud」があり、企業ニーズに即してどのような環境でも対応する格好だ。

提供製品のクラウドシフトに伴い、技術的なサポート体制は大きく変化した。

技術本部 クラウド統括部 統括部長
崎本高広氏

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「オンプレミス用の製品は、ハードウェアの管理やセキュリティ対策などの運用をお客様が行います。一方、クラウドサービスでは、当然運用を当社が担うわけです。例えばSVF Cloudは、請求書や納品書、出荷伝票などを扱うため、もしサービスが止まればお客様のビジネスもストップしてしまいます。高い可用性が求められており、同時にお客様のデータを守るという責任も重大です。安定的にサービスを提供するために、日々工夫を重ねてきました」
と、技術本部クラウド統括部統括部長の崎本高広氏は説明する。

サブスクリプションモデルのクラウドサービスでは、顧客に継続的に利用してもらうことが重要だ。「これがなければビジネスが回らない」「このサービスのおかげで事業成長できる」と顧客が思えば、そのサービスは長く使われるだろう。顧客満足度をいかに高めるかが切実な課題である。SaaS事業者には、ユーザーに「遅い」と感じさせないパフォーマンス管理が求められる。また同時に、提供機能は頻繁なアップデートを繰り返している。

技術本部 クラウド統括部 リードアーキテクト
曽我知隆氏

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「オンプレミス向け製品のアップデートは年に1~2回ですが、クラウドサービスでは毎月のように機能の追加や拡張を行っています。アップデートが障害を引き起こしたり、パフォーマンスに悪影響を与えたりしていないかをこまめにチェックする必要があります」
と崎本氏は話す。

こうした課題に対処するため、同社はNew Relicのソリューションを選んだという。

性能管理は自社開発ではなくNew Relicがベストと判断

ウイングアーク1stが、New Relicを導入したのは2019年12月。その数カ月前からトライアルを実施し、機能や使い勝手などを確認した上で、SVF Cloudのパフォーマンス状況を可視化、管理するために採用を決定した。

SVF Cloud上で、ユーザーは帳票の設計・出力などの処理を行っている。帳票の種類は多様で、複雑な処理を要するものも少なくない。そのため、顧客や帳票の種類などによって、マルチテナント環境における一部の処理でパフォーマンスが低下する場合があり原因究明に大きな工数を必要としたという。そこで、パフォーマンスの詳細な可視化と管理は必須と判断した同社は、まず自前での開発を検討したという。

「当社には多くの技術者がいるので、自前でつくれば求めているものができるはず。私も当初はそう考えていました。しかし、New Relicのデモを見せてもらって、考えが変わりました。シンプルで分かりやすいビジュアル表現、精緻なモニタリングが可能で、高度な分析ができます。自前でつくるよりもよいものが、既にあると思いました。加えて自前のツールでは、開発だけでなくメンテナンスにも工数がかかります。エンジニアがコアビジネスの開発に集中するためにも、New Relicの導入がベストだと判断しました」(崎本氏)

技術的な観点からNew Relicを評価したのは、技術本部クラウド統括部リードアーキテクトの曽我知隆氏だ。

「New Relicを選んだ最大のポイントは、SVF Cloudのソースコードに手を入れずに、サービスのパフォーマンスを計測できたことです。いくつかの類似製品も検討しましたが、その中にはソースコードの改変が必須というものもありました。ソースコードに手を入れて、万一不具合が起きればダメージは非常に大きいですからね」
と曽我氏は話す。

ボトルネックを見つけ出し素早く課題解消に動く

ウイングアーク1stはいま6種のクラウドサービスを提供しており、うち4つがマルチテナント環境で動いている。SVF Cloudは4つのうちの1つだが、同社は他の3つのクラウドサービスにもNew Relicを導入する予定だ。

「SVF Cloudで使ってみて、New Relicを他のサービスにも展開したいと思いました。私の感覚としては、“出来の良い部下”が入社してくれたようなものです。4つのクラウドでパフォーマンス管理を行うには、サービスごとに1人の担当者が必要。New Relicがあれば、私1人ですべてのサービスをカバーできます」
と曽我氏は語る。

曽我氏はいま、毎日New Relicの画面を見てSVF Cloudの中で起きていることをチェックしている。見ようと思えば何でも見られるため、色々なことが気になってしまうという。オフィスのPCでチェックするだけでなく、電車の中など移動中にもよくスマートフォンでNew Relicの画面を確認している。

「一番気になるのはトランザクションです。どのようなリクエストの処理が速いか、遅いかということも詳しく確認しています。時間帯やお客様によってピークが異なるので、New Relicを見ながら『なぜ、ここにピークが来たのか』と考えます。こうした調査も簡単なので、ボトルネックを素早く見つけられます」(曽我氏)

ボトルネックはCPUかもしれないし、データベースやストレージとの連携部分にあるかもしれない。あるいは、特定の顧客に固有の課題があるかもしれない。こうした問題点を浮かび上がらせることで、サービスの課題解消に向けた打ち手が見えてくる。

「New Relicを使い始めて数カ月で、ある部分がボトルネックになっているようだという目星をつけることができました。システムのアーキテクチャに若干手を入れることで、パフォーマンスはかなり改善するはずです。近々、そのための改修を行う予定です」
と曽我氏は改善効果に期待している。

「小さな不満」を可視化して顧客満足度を高める

SVF Cloudをはじめ、ウイングアーク1stのSaaSソリューションはすべてAWS(Amazon Web Services)上で動いている。AWS以上の稼働率を保証することはできないものの、SVF CloudはSLA(サービス品質保証)で99.5%の可用性を掲げる。ただし、常に100%を目指していると崎本氏は力を込める。可用性はもちろんだが、一定以上のパフォーマンスを維持することも重要だ。

「従来、お客様から『処理スピードが遅い』と連絡が入ることもありましたが、遅いと感じつつ我慢して使っていたケースもあったのではないかと思います。後者のようなお客様の声を、これまでは吸い上げられませんでした。New Relicを導入したことにより、こうした不満の原因も可視化できます。それに対してプロアクティブに対策を講じることで、顧客満足度をさらに高めていきたいと考えています」(崎本氏)

また、アップデート後のパフォーマンスを手軽に確認できるのもうれしいと曽我氏はいう。

「New Relicには、常に7日分の情報が保持されています。従って、アップデート後にパフォーマンスの変化があれば、即座に分かります」

以前はリリース後しばらくの間なかなか安心できなかったが、いまではビフォーアフターの数値を比較して問題なければ次の仕事に集中できるようになった。冒頭、帳票分野のソリューションとして、オンプレミス向けとクラウドサービスの両方があることを説明した。現状では、金融機関などが大量の帳票処理に用いているのは、オンプレミス向けのSVF。ただ、こうした顧客の多くがクラウド化の方向を打ち出しており、今後、大規模なユーザーもSVF Cloudに移行する可能性もある。

「SVFのお客様の中には、1日何十万ページという帳票の大量処理を行っているケースもあります。こうしたお客様がSVF Cloudに移行したとしても、十分なパフォーマンスを維持しなければなりません。お客様には弊社のソリューションに安全と安心を強く感じていただきたい。そのための準備を、いま着々と進めているところです」
と崎本氏は明かす。

その際、New Relicの役割はこれまで以上に大きくなる。クラウドシフトを進めるウイングアーク1stのビジネスにおいて、New Relicは欠かせない存在になりつつあるようだ。

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